「ぶわっかもぉぉぉぉぉぉんっ!!」
 棟梁室で叉玖磨棟梁の罵声が外まで聞こえるくらい響いた。
 俺たちは肩を落として反省していたが、叉玖磨棟梁は体を震わせ、物凄い剣幕で俺たちに睨みつけていた。
『すいません…』
「『すいません』で済んだら検非違使なんぞ必要ないわ!!どーするんだ、この始末を!!」
「しょうがないじゃない。元はといえば藤片棟梁と狭霧が悪いんじゃないか。」
「当たり前だ。わしがおまえ達を派遣したのはその二人の監視役のためじゃ!!それなのにおまえ達は二人を止めることもできずおめおめと…!」
「そんなこと、一言も言わなかったじゃないか!!」
「言ってないわ!!」
「自身満々で言うな!!」
 俺は思わず叫んでしまった。
 それを見て、北都は――
「つまり、叉玖磨棟梁曰くあの二人は史上最悪のトラブルメーカーというわけ?」
「むろん、そういうことになるな」
「北都もその史上最悪のトラブルメーカーの一人じゃないの?」
 俺がそう言うと、北都はじろっと俺を睨みつつ、
「だったらこの騒動が起きる前になんで二人の実験を止めなかったんですか?」
「二人が実験をしているとは知らなかったんだ。」
『……おい……』
 俺と北都はジト目でハモった。
 知らないでどうするんだよ。
「とにかく、今はこのメインシステムを復興しないと、セキュリティシステムもままならない。これが長時間続けば犯罪もやりたい放題になってしまいますよ。」
 北都は問題を指摘すると、叉玖磨棟梁は机の上に刑部省内の構造図と何のシステムかは分からないがシステムの設計図を広げた。
「藤片の情報ではまだ失敗作がこの刑部省内に残っているそうだ。失敗作はシステムを好むと藤片が言っていた。ならばこちらで罠つきのシステムを作り出し誘き出すのだ。」
「そのシステムは誰が作るの?」
「先程の棟梁会議で、わしとプロ級の幸夜がやることになった。」
『幸夜?』
 俺と北都は眉をひそめた。
 幸夜なんて聞いたことないぞ。
「聞いたこともないのも無理はない。幸夜は極度の引っ込み思案でなぁ。あんまり行事ごとに参加しないんだが、システム関係のことはピカイチじゃ。今使用しているメインシステムは全てあやつが考案し作ったやつだからのぉ。」
「叉玖磨棟梁、幸夜って人についてやけに詳しいね。」
「そりゃ、わしの息子だからな。」
『ええええええええっ?!』
 俺と北都は叉玖磨棟梁の重大発言に驚き叫んだ。
「北都、知ってた?」
「いんにゃ、初耳。」
「あれだけ人見知りが激しくては恥ずかしくて言うわけなかろう。」
 と叉玖磨棟梁はふうと大きくため息をひとつついた。
 そんなに苦労してんだ。
「二人とも、悪いが幸夜をここに呼んできてくれないか?」
「え〜?!たださえ引っ込み思案な人を赤の他人が呼びに行ったら、それこそ余計出てこなくなるんじゃないの?」
「そういうふうになっても大丈夫じゃ。」
 叉玖磨棟梁はそう言うと、俺に一つの小さな小箱を渡した。
 赤く塗られた木箱に金の装飾が施されている。
「それはあいつが一発で素直に言うことを聞く箱じゃ。使い捨てみたいなものだから、非常事態にならぬ限り開けるんじゃないぞ。」
「ふ〜ん。」
 俺はそう言いつつ、小箱のふたに手をかけて開けようとした。
 しかし――
「言ってるそばから開けるな!!」
 と叉玖磨棟梁からゲンコツを食らった。
 いった〜っ!!成長期の子供に普通ゲンコツするかよ!!
「とにかく、二人とも藤片や桜ノ宮はほっといて幸夜をここに連れて来い!!連れてくるまでここに入ってくるな!!」
『ちょ…っ?!』
 抵抗する間もなく、俺と北都は棟梁室から放り出されてしまった。
「ど…どうする……?」
 呆然としたまま俺は北都に尋ねた。
 北都は同じく呆然としたままだが、
「行くっきゃないだろ」
 やっぱり……そうなるわけね………。
「ところで、幸夜ってどこにいるのかな?」
「さあ?とりあえず人事部に行ってみる?」
「人事部の役人の戸籍データファイルを調べようって言うの?
 戸籍データは確かマイクロフロッピーに保管されているって聞いてるけど、人事部の人がそう簡単に渡してくれるかなぁ…。
 たださえ人事部はお硬い人ばっかの集まりなんだから。」
「そうだよなぁ。それか人事部に近い人に聞いてみる?」
「誰だよ、それ?」
「朧」
 ……確かに人事部に近い存在だわな。朧はゲートキーパーっていう大きな役割を持っているけど、なんかしら代償がありそう。
「僕をお呼びですか?」
『うどわぁぁぁぁっ!!』
 いきなり後ろから誰かに声をかけてきたものだから俺たちは驚いてひっくり返った。
「お…お…朧……?」
 ひっくり返ったまま俺は声をかけた人物に驚いた。
 噂をすればなんとならというのはまさにこのことだな。
 俺は別の意味でしみじみ納得してしまった。
 朧はファイルを数十冊抱えて立っていた。
「二人とも廊下で何やっているんです?」
「ちょうどいい時に現れたな〜、朧。」
「は?」
 俺の言葉に朧は状況が掴めずにいて、眉をひそめた。
「叉玖磨棟梁の長男って知ってる?」
「棟梁に息子がいたんですか?!」
 俺の言葉に朧は初耳だと言わんばかりに驚いた。
 ほ〜ら、やっぱり驚くよね。
「実はかくかくしかじか」
 俺は今までの経緯を朧に話した。
 すると朧は、
「な〜んだ、幸夜さんのことですか。あの人は引っ込み思案で有名ですからねぇ。」
 としみじみ言う。
「幸也さんならこの先の突き当たりのシステム研究室にいますよ。
 あ、二人とも幸也さんをあまり刺激しないでくださいね。あの人興奮が頂点にいくと、そこらへんにあるもの投げつけてきますから…。」
 そんなに凄いの……。
「と…とりあえず教えてくれてありがとう。」
「いえいえ、お礼は華軽堂のミルフィーユでお願いしますね。」
 こけこけ!!
 さりげなく言う朧に俺と北都はコケた。
 や…やっぱり、朧ってちゃっかりしてるよ。

 

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