きぃぃぃぃぃぃ…っ。
「失礼しま〜す。」
 俺は静寂としたシステム研究室のドアを開ける。しかし、中は人気がなく、部屋の中も電気が消され、薄暗くなっていた。
「あれぇ〜?行き違いだったかなぁ〜?」
 きょろきょろ辺りを見回すが、人っ子一人いない。一体どうなっているんだ?
 なんか、ここの部屋よくよくみると結構怖いなぁ……。
「………ど…どちらさま…ですか……?」
『うひゃぁぁぁっ!!』
 聞きなれぬ男の声に俺と北都は心臓が口から飛び出るくらい驚いて後ろにさがった。
 い…いたんかい……!!
 その声の主は入り口の奥の奥にある机の脚からおずおずと顔を出してこちらを見ていた。年のころなら30を越えたばかりの青年で白衣をまとい、ぼさぼさで手入れがあまり去れていない黒髪にブラウンの瞳にメガネをかけている。
「………あ…ああああああの……こ…こここここの研究室に……な…ななななな何か用ですか……?」
 めちゃくちゃ震えた声で俺たちに尋ねてくる男性。
 うわ〜、めちゃくちゃ人見知りしてんなぁ〜。
「あの〜、幸夜=二宮さんですか?」
「はははははははいぃぃっ!!そ…そうですけどぉぉ?!」
 緊張のピークに達したのか、も〜目が回っている。
「実はあなたの父上から伝言を頼まれて来たんですが……」
「ひぃ…!!」
 なんも脅しもかけていない俺の言葉に幸夜さんは呻き声をあげ―――
「きやぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!さらわれるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!」
 と悲鳴をあげてそこらへんにあるものを見境なく俺たちに投げつけてくる。
 ひえぇぇぇぇぇぇぇぇっ!なんも刺激してないのにぃぃぃぃぃぃぃっ!!
 俺たちは必死に幸夜さんが投げる物を避けていく。物の中にはナイフやはさみなども含まれている。
 かっ!!
 俺の右横の壁にナイフが突き刺さり、頬から一筋の血が流れる。
 ……こ……この人……極度の人見知りじゃなくて、極度の妄想持ちだぁぁぁぁっ!!
「幸夜さん!!俺たちの話を聞いてくださいってば!!」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!殺されるぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!」
「だから、殺さないってば!!」
「嘘だぁぁぁぁぁっ!!僕をさらって有り金全部取って、山中で僕をメッタ刺しにして殺して、遺体をダムの中に沈めるんだぁぁぁぁぁっ!!」
 もし犯人の立場になってもそこまでしないから……。重症だな、こりゃ……。
「洸琉、叉玖磨のじーさんからもらったあの箱を使え!!…あだっ!!」
 そうだった!!一かバチか、この箱に賭ける!!
 北都に言われ、俺は慌ててポケットの中から叉玖磨棟梁からもらった箱を出して、幸夜さんの方に向け、その箱を開けた。
『♪いーと巻き巻き、いーと巻き巻き、ひーてひーてとんとんとん♪』
 しぃ――――んっ。
 箱から現れたのはからくり人形でいきなりマヌケな歌を歌いだしたものだから、部屋中に沈黙の空気が流れる。
 な…なんじゃこりゃ……。
「あ…あああ……」
 しかし、幸夜さんはその人形を見るなり、今の今まで投げていた物を捨て、箱の元にやってくる。
『幸夜君。この人は父ちゃんからの立派な伝言人だよ。安心してね。』
「うんっ。わかったよ、デメちゃん!!僕頑張るね!!」
 からくり人形に思いっきり返事をする幸夜さん。
 で…デメちゃん……。良い大人がこーゆうのにあっさり乗るのって……。
『それじゃあ、僕は星に帰るね!!』
「ありがとう、僕、頑張る!!」
 そう言うと、からくり人形は箱の中に帰った。
 外見は大人でも、精神面はまだ子供っていうわけか……。
「さあ、正義の使者さん!!早く父さんの元へ行こう!!」
 と、さっきの怯えようとはうって変わってめちゃくちゃきりっとして正義感溢れる青年となり、何も伝えていないのに、部屋からすたすた外に出て行った。一方俺たちはいうと、その場でコケていた。
 正義の使者って……オイオイ………。
 なんで刑部省には濃いキャラがたくさんいるんだろう……。

 

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