棟梁と幸夜さんたちが勝手に決めたことによって、俺はバグを罠に誘導する囮役をやらされる羽目になった。
 俺はウェットスーツを着込み、刑部省の地下にあるとある部屋の前で棟梁と作戦の最終確認をしていた。狭霧さんと藤片さん、瞳姐さん、幸夜さんは作戦を実行するため、バグを俺がいる部屋に誘導するために一足先に作戦を実行している。北都はあの早百合を遠くに置いて作戦の妨害をしないようにとにかく刑部省から引き離す役を随分と前からやっている。
 しかし、さっきからとてつもなく嫌な予感がしないでならない。特に北都がそうだ。逃げ回ってこっちに戻ってくる可能性がある。頼むからこっちに来るなよ〜。
「さて、ここが今回の作戦の鍵を握る部屋だ」
 部屋の前で自身満々に言う棟梁。
「……ここ、何の部屋?」
 俺は思わず棟梁に尋ねてしまった。
 目の前にある部屋はあたかも何十年も使ってませんと物語っているかのようにボロく、埃がかぶっているわ、なんか壁の至る所にシミが付いている。
 これを見ると、とてつもなく不安になるだけど……。本当にこの作戦は大丈夫なのかよ。
 しかし、棟梁は笑いながら、
「ここはな、わしが若き頃使っていたメインシステム室じゃ。数十年前に川の決壊で水没してから今のメインシステムに入れ替えられたがの」
「………をい…………」
 俺はジト目になりながら言った。
 フツー水没した建物をそのまま使う省庁があるかい!!
 ってことは、あのシミって水没したときに浸透した水?!なんかさらに嫌な予感がするんだけどぉ〜!!
「ま、まだあの時の水は残っているけど気にせずさくさくとここの中に来たバグを速やかに部屋の端に設置しておいた箱に入れろ。いいな。」
「うぃ〜っス。」
 俺は軽く返事をしてドアノブに手をかけ、勢いよく開けたとき―――
「うおぉ?!」
 どぼんっ!!
 ドアを開けたそのとき、いきなり目の前は広々とした水面だった。俺は勢いよく開けたものだから、そのまま水の中へ顔から突っ込んだ。
「おー…そうだった。すっかり忘れてたわい。
 ここはまだ水没した当時のまま水が大量に残っていたんだったな。床も抜けてかなり深いから気をつけるんじゃよ〜」
「そーゆーこたぁ早く言え!!」
 今頃になって言い忘れに気づいた棟梁に浮き上がるなり俺は思わず叫んだ。
 しかし棟梁は笑いながら、俺一人部屋に残し、ドアをカギで閉めてしまった。
 むー…俺にウェットスーツをわざわざ着せたのは、ハナっから分かって着せたんだな!!
 俺は一人水に浮きながらぷぅっと頬を膨らませながらこの部屋をぐるっと見渡した。ざっと三十畳はあり、床(水面)天井までもかなり高い。やはりここも廊下と同じように壁の至る所にシミができているわ、亀裂も入っている。
 一番端にあるあの不気味な機械仕掛けの箱に入ればいいわけだろ。放り投げてなんとか届くかな。
 そう思っていたそのとき、天井からがさごそと物音がかすかに聞こえてきた。
 おいでなすったか。結構来るのが早いな。狭霧さん達がうまくこっちに誘導できたかな。
 そう思いつつ更に物音が近づいてくるのが分かった。
 さぁ〜てこっちも行動開始と行きましょうかね。ってその前にあの大量のバグをどうやっていっぺんにあの箱までに連れてくかだよな〜。
 天井がバグの重みでぶち抜けるのを待っているのもしゃくだしな〜。それに時間もあんまりないし…あ、そうだ。魔法で天井をぶち抜けばいいじゃん!!そしたら一気に落ちてきてその拍子に罠の箱に勝手に飛び込む奴もいるかもしれない!!これで一石二鳥!!くぅ〜!!なんて頭がいい俺なんだ〜!!
 と俺は後先考えずにすぐさま行動に移った。俺は印を組み、呪文を唱え――
「大地よ退け!!」
 どこぉ!!
 術を放ち、土系である天井は音を立てて穴を空けていくと、俺の思惑通り、天井からバグがバラバラと落ちてきた。
 しかし俺はバグを見てぎょっとした。それは俺の予想以上にバグの量が多かった!!
「にょえ―――――っ!!やめればよかったぁ―――!!」
 しかしそう叫んでも時既に遅し。天井を失ったバグたちは雨の如く降ってくる。そして、次々に山積みになっていくのだった。
 えーっと魔法で…ってダメだ。余計増える。武器は――みんなロッカーの中に置いてきちまったじゃねーか!!どぉーしよ〜!!って叫んでいるヒマはないか…とにかく少しでもあの箱にバグを入れなくちゃ…!!
 俺は一瞬パニック状態に陥ったが、すぐに冷静さを取り戻し、近くに浮いていたバグを数匹手に取り、端にある箱に向かって放り投げると、バグは弧を描き、そして箱に吸い込まれるように消えていった。
 しかし、数匹消えたところでこの膨大なバグを消したことにはならない。バグは未だに落ちてくる。
 俺はそんなことを無視してそこらへんにあるバグを次々に箱に向かって投げた。
 しばらくその動きをしていると――
 ごぃぃんっ!!
「あだ?!」
 突然頭に硬い物が直撃し、俺は思わず悲鳴をあげた。
「いったいなぁ〜も〜!!誰だ―――」
「うどぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 ……こ…この声わ
 俺は聞き覚えがる声に一瞬動きが固まるが、恐る恐る上を見上げてみると、上から早百合に抱きつかれた北都が落ちてくるではないか!!
 う゛わ゛――――っ!!なんでここに北都がいるわけぇ―――?!しかも、早百合付きで!!
 北都たちは積みあがったバグのところに落ち、バグがクッション代わりとなり、運良く助かった。しかし、クッションは必ずしもそのままの状態ではいてくれない。その通りに、北都たちは元に戻る反動により、再び宙に飛び上がり、そのまま弧を描いて――――っては…箱にぶつかるぅぅぅぅっ!!
「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 がぎっ!!
 北都は箱にぶつかる寸前に刀を引き抜き、あろうことか箱に刃を刺してしまった。
「ふぅ……助かったぁ〜……」
「『ふぅ』ぢゃねぇーよ、このおバカ!!折角の作戦が台無しじゃないか!!」
「どこが?」
「自分が刀で刺したモンをよぉ〜く見てみろよ!!」
「え?」
 とまだ自分が刺した物に気づかない北都。そしてゆっくり時分が刺した物に視線を移すと、やっと自分が重大なことをしてしまったことに気が付いた。
 しかし、箱からはぷすぷすと煙が出てきている。
 な……なんか……このパターンって………もしかして………
 そう思ったそのとき、予感は見事的中し、箱からいくつもの眩い光が出てきて―――
 ちゅっどぉぉぉぉぉぉぉぉんっ!!
 箱は俺達や建物全てを巻き込んで大爆発を起こしたのだった。

 

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