あっけない結果で終止符がついた障害物競走が終わり、次のプログラムにコマが進む。
 次の競技は俺も係として出場する「走れ玉入れ」だ。
 「走れ玉入れ」というのは、一定時間内カゴをしょった係がグラウンド内をちょこまかと逃げ回り、そのカゴを各チームの選手たちが自分たちの色の玉をカゴに向かって投げつけ、入った個数で勝敗を決める。2試合やって、カゴは4人、各チーム16人参加が認められている。各選手に10個の玉を所持させてあり、それ以外の玉を使用してはならない。作戦重視の競技でもある。
 この競技は競技の中では一際珍しい係の者のみ魔法の使用を認められていて選手は使ってはならないというルールが盛り込まれていたりする。
 う〜126人相手に逃げきれるかなぁ〜……。
 俺はカゴをしょいながらそう思った。
「洸琉ちゃぁ〜んっ!頑張ってねぇ〜!!お姐さんが応援してあげるからね〜!!」
 と刑部省のテントでチアガールの格好をして俺に声援を送る瞳姐さん。
 しかし、俺は見て見ぬフリをした。
 20を超えた大の大人が普通チアガールの格好するかぁ?!
 ピッピィ〜ッ!!
 その時ホイッスルを吹く音がして俺はあらかじめ審判に決められた指定位置に急いで着いた。
『それではこれより第一試合を始めます。
 位置に着いてヨーイ…ッ!!』
 ぱぁ〜んっ!!
我と共に舞い上がれ!
 ちゅっどぉぉぉぉぉぉぉんっ!!
『うひぃぃぃぃっ!!』
 ピストルの音と共に俺は術を発動すると、審判を巻き込んで選手たちを吹っ飛ばした。
           
 まだまだ!!
 すでに俺は新たな魔術を唱え初めていた。
汝の癒しの眠りを誘え!!
 ぱたっ
 くぅくぅ……
 術を発動すると選手たちは次々に倒れ、天使のような(?)寝顔で寝てしまった。
 ふ…っ。他愛もない。
「うりゃぁぁぁぁっ!!」
 と他の選手が寝ているにもかかわらず、一人のがっちりとした体育系の職員が物凄い剣幕でこっちに向かって突進してきている。その職員は赤のはちまきをした中務省職員だったりする。
 俺はその職員を見てぎょっとした。
 げっ!あれ、宮様の直属の部下ジャン!!
 ってことは、今回のこれも賭けの一部分なのね……。
「東宮覚悟ぉぉぉぉっ!!」
 職員は素早い手の動きで俺のカゴに入れようとするが、俺は上に跳んだので、入れることができなかった。
「むっ?!術を使うなど面妖な……」
「術なんか使ってねぇよっ!!上に跳んだだけだ!!」
 むぎゅぅっ!!
 職員の顔に着地した俺の足は、見事職員の顔にめり込み、そのまま後ろに倒れた。
「だりゃぁぁぁっ!!」
 波状攻撃のように紫のはちまきの宮内省と白のはちまきの大蔵省が俺に襲いかかってきた。
 でぇ〜いっ!!次から次へと俺に攻撃を仕掛けてくるなんて!!
 だいたい、他のやつ眠らせたのになんでコイツら起きてるんだよ?!
『テントにいた宮内省と大蔵省職員が競技に乱入し、洸琉=新羅選手に襲いかかってきたぁ!
 眠らされていた職員も次々に目を覚まして起きだしてきたぞ!!
 さぁ、どうする?!』
 げっ!!乱入の上に目が覚めた?!早すぎるぞ!!こりゃ、さっさと逃げるか攻撃呪文を唱えなきゃ…。
 こ〜なったら!!
我と契約せし盟友よ…以下呪文省略!いでよ、サーベルタイガー!!」
 俺の声と共に陣が描かれ、その中から俺の背丈以上の大きさの鋭く長い牙を持ったサーベルタイガーが飛び出てくる。それを見た二人の職員はきびすを返し、一目散に逃げていった。
 人に攻撃しかけといて逃げようなんぞ甘い、甘い!!
「サーベルタイガー、今逃げた二人を死なない程度に攻撃!!」
「ぐるるぅ!!」
 俺が命令すると、サーベルタイガーは何の迷いも無く、二人の職員を追いかけ始めた。
 ちょうどその時―――
 ピッピッピィ〜!
 試合終了のホイッスルがグラウンド一帯に響き渡った。
 俺のカゴには一つも玉が入っていない。何とか守り切った。他のカゴの方はわからない。
 しかし、試合時間が短いと思ったのは俺だけだろうか?
 そう思いつつも俺は審判のところにカゴを持っていくと、アナウンサーから
『ひ…ひひひ洸琉=新羅選手。早くこの危ないサーベルタイガーを何とかしてくださいぃ!
 私はもう怖くって怖くってちびりそうですぅぅ〜!!』
 と悲鳴が上がる。
 アナウンサー席にはさっきの職員二人を含めてマイクを持ったままアナウンサーが席の端でぷるぷると震えて怯えている。サーベルタイガーの方はというと、牙を向けていつでも攻撃できるような態勢になっている。アナウンサー席の周りにいた観客もいつの間にかそそくさと避難していてあの三人だけが取り残された状態になったようだ。
 あ〜…こりゃさっさと返還しないと後が怖いわな……。
 俺はぼそぼそと呪文を唱え、足元に返還用の陣を描いた。
汝の盟約は終わり
 我は我、汝は汝の在るべき元へ戻るとき

 呪文を唱えると、サーベルタイガーは光りその場から消えた。
 はぁ〜…疲れた……。
『そ…そそそそそそれでは…しゅしゅ集計結果が出ましたのでお知らせします。
 只今の試合、一位・中務省45個、二位・兵部省30個、三位・刑部省29個、四位・式部省20個、五位・大蔵省、治部省12個、七位・宮内省6個です。
 それでは第二試合を始めたいと思います。係の皆さんはカゴを持って速やかに指定位置に配置してください。
 あ!洸琉=新羅選手!もうあんな怖い思いをしたくないんで、さっきみたいにサーベルタイガーや肉食獣を召喚しないでくださいね!!!』
 こけけっ!!
 アナウンサーの忠告に俺は思わずその場でコケてしまった。
 そこまで怖い思いをしたのか……。
 俺はそう思いつつ自分の指定位置に向かおうとした時、選手たちが誰かを囲むように作戦会議をしているのが目に入った。
 別にそんなことは毎度のことなので何も気にしなかったが、そいつらに対して妙な胸騒ぎを感じた。気のせいと思いたいが、胸騒ぎは余計に強くなるばかり。
 俺は胸騒ぎを抱えたまま、試合に臨むのだった。
『それでは位置についてヨーイッ!!』
 ぱぁ〜ん!!
 ピストルが鳴ると共に試合が始まった。
 その時、俺の胸騒ぎが見事的中した。それは目の前から物凄い勢いで選手たちが目の色を変えてこっちに突進してくる。
 ひえ〜!!今回はマジで逃げないとこっちがやられる!!
 俺は右足のかかとを重点にしてきびすお返して逃げようとするが、後ろからも選手たちがやってくる。こちらも目の色が変わっている。
 は…挟み撃ち?!ちょっとまってよぉぉ!!こんな幼い子供に大勢で攻撃してくるなんて卑怯だぞ!!
 はっ!!さっきの作戦会議はもしかしてこのことだったの?!
 呪文を唱えているヒマもないし、武器もない。絶体絶命の大ピンチ!!
 カチャ…ッ
 足に金属が当たる。
 ん…何だ?
 俺は足元に目をやってみると、そこには芝生用スプリンクラーがあった。
 攻撃にはならないが、多少の目くらましにはなるはず!
 俺は右足のかかとをこつんと鳴らすと、シューズのつま先に隠してあった隠しナイフが飛び出した。
 そのナイフをスプリンクラーに刺すと―――
 どっぱぁぁぁぁっ!!
 勢いよく水が噴き出し、俺は水の壁によって選手たちから目くらましになったが、かわりに一番近くいた俺がモロに水をかぶりずぶ濡れになる羽目となった。
 俺は濡れながらも浮遊呪文を唱えてその場から離れた。
 はぁ〜いくら自分でやったこととはいえ、ここまですごい噴出力があったとは……。
 そう思っていたら
 べひっ
「おっとぉ?!」
 いきなり頭に玉入れの玉が当たり、空中でちょっとよろけた。下を見てみると、選手たちが俺に向かって次々に玉を投げてくる。
 捕まえられないと分かったら今度は集中攻撃かよ!!
 そっちがその気ならこっちは魔法だ!
 俺は呪文を唱え始める。
「紅蓮の炎よ!鞭と成りて我が前の敵を討て!」
 ぐおうっ!!
 術を発動すると、鞭状の炎が次々に玉を焼き尽くした。
『え―…このような場合は玉が燃え尽きてしまったのでこの試合は無効とさせていただきます。』
『えええええ〜?!!』
 アナウンサーの一言に俺を含めて選手全員が驚いた。
 こんなに苦労したのに無効だなんて納得がいかないよ!
 そう思っていてもアナウンサーには伝わらず、アナウンサーは淡々と集計結果を言い始めた。
『それでは走れ玉入れに関しては第一試合の結果のみで集計させていただきます。
 一位中務省250点、二位兵部省100点、三位刑部省50点が加算されます。残りのチームは全て0点とさせていただきます。』
『……………………』
 スタンド席で歓声があがる中、グラウンド内にいた玉入れ参加選手たちは納得がいかないまま、ただ呆然としていた。

 

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