昼食が美味すぎて、睡魔に襲われそのまま寝てしまった俺が起きたのは午後の部に入ってから5種目のことだった。
「うみゅ……」
 寝ぼけ眼で起きた俺はしばらくぼーっとしていた。
 俺は起きてからすぐ行動せず、しばらくぼーっとしていまうクセがある。
「洸琉!次、俺たちが出る騎馬戦だぞ!!」
「ぅえ?!」
 俺は北都の焦り声に驚いて、間抜けな声を出しつつも、目がパッチリ覚めた。
 騎馬戦は俺たちが出る競技じゃん!
「なんで、もっと前の競技のときに起こしてくれなかったんだよ?!」
「あぁん?!起こしてやったよ!!そしたらおまえ、『もっと食べる〜っ!!』とか言って人の腹蹴ったんだよ!!」
 逆ギレした北都に俺は何も言い返せなかった。
 北都曰く俺は「超」が付くほど寝相が悪いらしい。随分と前に北都と同じ部屋で寝た時、北都の股間にかかと落しを喰らわせたらしい。それ以来、北都は俺との同室を拒むようになった。
 そんなに俺の寝相は悪いかなぁ?
 まあ、起きたとき多少寝ている場所がズレているけど……。
 それはともかく早く行かないとマズイ!
「二人とも〜!!早くこないと棄権になっちゃいますよ〜!!」
 と入場門のところで朧が叫んでいる。俺たちは慌てて武器やアイテムを持って入場門に行き騎馬を作った。
 各チーム80人まで参加が許されている。
 俺たちの騎馬は俺、北都、朧、瞳姐さんである。俺は騎手で他は皆馬。
 ぶひゅぉ〜おえ〜……
 何の演出かは知らないが、白い煙がグラウンド全体に広がり、ほら貝の音が辺りに響き渡る。
 ったく、関ヶ原の戦いじゃあるまいし、ここまでやらなくたっていいんじゃないの?
『それでは、これより騎馬戦を始めたいと思います。
 騎馬戦のルールは至って簡単。相手チームのはちまきをより多く取ったチームが勝ちとなります。取られた騎馬は攻撃を避けるため速やかにグラウンドの白い線の外に退場してください。
 はちまきの取り方は相手が死ななければなんでもアリです。武器や魔術、アイテムを使ってもペナルティにはなりません。
 馬を崩しても構いませんので、馬の方もじゃんじゃん攻撃してくださいね!
 制限時間ナシの一本勝負です!
 それではぁ!騎馬戦一本勝負、始め!』
 ぱぁ〜んっ!!
 ピストルの音と共に騎馬たちが動き始める。
 しかし、俺たち刑部省と中務省は目が合うなり頷き―――
「中務省はほっといて――」
「刑部省はほっといて――」
『とりあえず邪魔者をさっさととっちめる!!』
 別の意味で意見が合い、刑部省と中務省は一時的に手を組み、他の省庁に襲いかかった。
『おお〜っと!中務省と刑部省が一時的に手を組んで他の省庁たちに集中攻撃を開始した!
 も〜やりたい放題で、爆音が響き、煙が立ち込めています!
 そして、あっという間に他の省庁全てを全滅させました!しかも双方とも脱落者一人もいません!やられた側の職員たちは皆炭になっちゃっています!医療班!速やかにけが人を収容してください!!
 さあ、邪魔者が消え、これで中務省と刑部省の一騎討ちとなりました!!
 一体どちらに勝利の女神が微笑むのか?!
 ほら貝合奏団の方!効果音ヨロシク!!』
 ぶおえ〜
 白熱するアナウンサーにあわせてほら貝の音が鳴り響く。
 いちいちやらんでも……。
「あんなまぬけな音を聞いてたら、こっちの脳ミソまで腐っちゃうわ!!先制攻撃いくわよ!!」
 瞳姐さんはそう言うと、組んでいる手を離し、腰に携えていた鞭を振り回し始めた。
 俺は俺でいきなりバランスを崩されちゃったもんだから、慌てて北都の肩に乗っかった。
「おらおらおらぁ〜!!鞭さばきをご覧あそばせ!!」
 瞳姐さんの華麗なる鞭さばきで中務省の前衛のはちまきを奪い取る。
 それが口火となり、他の騎馬たちも攻撃を開始する。
 俺もまた北都の肩から降りて術を唱え始めた。
「そんじゃまー。俺たちも攻撃を開始しますか!!大地よ震い上がれ!!
 ちゅどぉぉぉんっ!!
『うひぃぃぃぃぃっ!!』
 術を発動すると、中務省の周りの地面が吹き飛び、職員たちが次々に宙に飛んでいき悲鳴があがる。それに合わせて、剣を持った北都が宙に舞い上がり、次々にはちまきを切っていき、下にいる朧に回し、朧がはちまきを回収していく。
雷雲よ!!
『?!』
 いきなり俺らの前に一本の雷が落ち、反射的に俺たちは後ろに跳んだ。
「ぬあ〜っはっはっはっ!!ここで出会ったが100年目!!東宮覚悟!!」
 とそこに現れたのは、『走れ玉入れ』で俺がしょっていたカゴに玉を入れようとしたあの体育系男!!
 うげ〜…なんでコイツまでこれに出てるんだよ……。
「『走れ玉入れ』では迂闊にも顔を踏まれたが、今回は一味違うぞ!!
 顔が踏まれた恨み今日こそ晴らさせてもらうぞ!!」
 って顔を踏まれたことまだ気にしてたかい…。
「そういうわけで、いくぞ!!いでよ!大量の取りモチ!!
 どべちゃっ!!
『ぶっ?!』
 召喚術によって頭の上から取りモチが落ちてきたものだから、俺たちはモロに頭から取りモチをかぶり、自由を奪われる。

        

 うきぃ〜!!全身ぬるぬる、べちょべちょぉ〜!!これじゃあ印を組めない!!
「ふあっはっはっはっはっ!身動きが取れなかろう!!俺が今すぐそのはちまきを取ってやるわ!」
「洸琉逃げろ!!」
 そんなこと言ったって、こんな状態じゃ逃げようにも逃げられないよ!!絶体絶命取られる―――と思いきや、取られる気配が全くない。
 あり?
 よくよく男を見てみると、どうやら自分もハマって身動きが取れなくなっていた。
「……なんだ。自信満々で言ってたくせに、結局自分もハマっているじゃん。」
「や…やかましい!!今すぐ取ってやるわ!!」
 男は強がりを見せているが、もがけばもがくほど体が沈んでいき余計身動きがとれなくなっている。その点俺らはそれを見てからというものの静かにしているので、奴よりはあまり沈んでいない。
「この取りモチどうします?」
 男を見ながら朧が俺たちに尋ねてきた。
 北都はしばし考えこう答えた。
「食う」
『へ?』
 北都の言葉に俺と朧は目が点になった。
 しかし、北都は俺たちを無視して一人黙々と取りモチを食べ始めた。
「なるほど、そういうことですか!!」
 と一人納得し始める朧。俺はちんぷんかんぷんでちっとも分かりやしない。
 朧はおもむろに手を上げ呪文を唱え始めた。
「我は求む母なる湖!!」
 がぼぼっ!!
 術が発動するなり、俺は水の中に沈んだ。それと同時に俺にへばりついていた取りモチがはがれ落ちる。
 朧の奴、いくらなんでもこんなところでこの術を使わなくても…。
 因みに、朧が使った術は砂漠などの水がない所に大量の水を召喚するために使われる召喚術の一つ。
 しかし、あまりにも大量なため、盆地などで召喚してしまうと、あっという間に集落などは水の中に沈んでしまうという欠点があったりする。
 俺はとりあえず、水面に顔を出して辺りを見回した。どこのチームもこの水のせいでテントの屋根までいってしまい選手たちは屋根の上に避難している。水面にはお昼の弁当や作戦用のボードなど色々な物がぷかぷか浮いている。
「うわぁぁぁっ!!た…助けてくれぇぇぇぇぇっ!!」
 と悲鳴をあげたのは、あの体育系男!
 ぷぷぷっ。あいつかなづちなんだ。
 この隙を狙ってあいつのはちまきを頂くとしますか!!
 俺はそう思い、再び水の中に潜って奴のところに向かおうとしたが、潜ったとたん巨大な黒い物体がぐるぐると俺の回りをまるで狙っているかのように泳いでいる。
 その黒い物体は、俺の前でいったん止まると、俺の方をじーっと見つめてきた。
 逆に俺はその黒い物体を見て血の気が一気に引いた。
 な…なんでこんな所にサメがいるの?!普通、海にいるはずだろ?!
「しゃぁっ!!」
「ん゛――っ?!」
 サメが大きく口を開けて迫ってきたので、俺は猛スピードで水の中を泳いで逃げた。
 うひぃぃぃぃっ!!神様、仏様、とにかく誰でもいいからこの状況を何とかしてぇぇ〜っ!!
 そう思っていたその時、誰かに両足を捕まえて、そのまま底の方まで引っ張れる。その時に口を開けてしまい、酸素が外に出て行く。
 がぼぼぼ…。
 あ゛――っ!!俺の酸素ぉぉ〜!!
 一体誰が俺の足を引っ張っているんだよ?!
 俺は足元を見ると、俺の足をつかんでいたのは耳がピンッと尖った幼いエルフだった。しかし、二人とも全く違う髪の色で片方は白銀でもう片方は黒だった。
 俺はコイツらを振り払おうとじたばた暴れるが、まったくびくともしない。
 マズイ…。早く上がらないと体温と酸素が……。
 こいつら見たことがある……。こいつらは――
 その時、白銀の髪の少女が俺の右足を離し、いきなり俺のみぞおちを殴った。
 がぼっ!!
 まだ口の中に残っていた酸素が全部出てしまい、意識もだんだん朦朧としてきた。
 あちゃー…こんなところでやられてちゃまずいの……に…………
 俺はそのまま意識を失ってしまった。

 

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