忘れてはならない・・・匂い

CHARLIE ROUSE / YEAH !

CHARLIE ROUSE:ts
BILLY GARDNER:p
PECK MORRISON:b
DAVE BAILEY:ds
Dec.20,21 1960
EPIC

1.YOU DON'T KNOW WHAT LOVE IS
2.LIL ROUSIN'
3.STELLA BY STARLIGHT
4.BILLY'S BLUES
5.ROUSE'S POINT
6.NO GREATER LOVE

 正月元旦からやっている店はなかなかないのだが、何故かジャズ喫茶は元旦はやっていたと記憶する。元旦やってその後休んでいたのかどうかは知らないが、ジャズ・ファンは初詣の帰りに一休みといって寄るところと云えば、そこしかないのではなかったろうか。マスターに新年の挨拶をし、徐に決まった席について一服しながら、さて何がかかっているのかカウンターの横をみるとはなしに、そっと一瞥する。かかっているものをジャケットで確かめるなんて、トウシロウと侮蔑されるのが悔しいからそんな技が自然と身に付く。
 しかしだ。いったいこの世界にジャズのアルバムがどれくらいあるかは知らないが、初めてのものは初めてなんだから仕様がない。腹をくくって一言、「マスター、これいいね。ちょっといいかい?」なんて空々しくジャケットを拝見させて貰うわけだ。
「いい音してるね。やっぱりレビンソンは違うよ」と音の良さを褒め、マスターをいい気にさせてその隙にアルバムのパーソネルを確かめる。チャーリー・ラウズは知ってるけど、あと知らない。だからその話題はやめておいてラウズ一本に話題は絞る。
「ラウズはいいよね。ソニー・クラークとやったリーピン・ローピンだっけ?あれもよかった。」と隣の男が
「なに?麻雀の話?」なんて首を突っ込んでくる。
「馬鹿野郎!麻雀じゃないよ。ソニー・クラーク!」とここぞとばかりに相手をこき下ろしにかかって知ったかぶりを発揮するのだ。相手が、ははーんと感心しだしたらこっちのものだ。ところが、マスターが余計なことを言い出したりすることもあって、
「モンクとやってた時は、あんまりぱっとしなかったけど、これは僕も好きだな」としみじみ云うのを聞いて、途端に慌て出すのだ。
「あー、あ?モ、モンク・・・とやってた・・・とき?」
「知らない?」グサッ。
「あー、忘れてた・・・。あの頃ね。」
忘却は金なり。ロッキード疑獄の証言で流行った言葉に「記憶にございません」というのがあったが、忘れるというのは大変便利な人間の機能である。
 
 新年早々、詰まらない話になったが忘れて良いものと忘れちゃいけないものとがあろう。
 ジャズ・ファンにとって忘れてならないものとは、ジャズに関わる「知識」より「匂い」ではなかろうか。
 このラウズのアルバム。僕は初めてであって、すっかりその「匂い」に参ってしまった。初めてなくせに、初めてでない・・・という些かややこしい表現となるが、嗅いだことのある「匂い」だから初めてではないのだ。しかもみっちり凝縮され煮染めしたようなジャズ臭がするから堪らない。どれでも良い。一曲聴くだけで、「僕ァー、シアワセだなぁ、ジャズ・ファンであったことが・・・」となること請け合いなのだ。いくらジャズが新しいスタイルを発見出来ても、この匂いだけは忘れてはならないと固く信じるものである。
追記



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