アッシュで遊ぼう!

 

 

 

*この話は元ネタが“ポップンミュージック5”が出た頃に作られたものなのでキャラ設定とかがかなりいいかげんです。悪しからず。

 

第11話以降はこちらのリンクからも行けます。 ⇒  

 

 

 

第一話:事件の始まりは・・・?

 

 四月某日。銀色の髪と紅玉の瞳を持つ、女性的と言って良い程の美貌の青年が、日●経済新聞とニューヨークタイム●とサ●ケースポーツ新聞を、居間のテーブルに広げて読み漁っていた。青年の名はユーリ。これでも立派な未確認生命体・・・もとい吸血鬼と世間一般に呼ばれる種族の者である。彼は同じく怪物仲間の狼男と透明人間とバンドを組んで結構な人気を博していた。例えホモ・サピエンスでなくても神からの招待状さえあれば通用する、それがポップン業界の常識である(多分)。

「あ、おはようございますッス、ユーリさん。」

ユーリが黙々と新聞を読んでいると、バンド仲間の一人、狼男のアッシュが声を掛けた。昼に会おうと夜に会おうとその日初めて会った相手には『おはよう』と挨拶するのもまた、業界人の掟らしい。あと、どうでもいい話かもしれないが、水無月(筆者)はアッシュの獣姿が狼ではなく犬に見えて仕方がない。

「・・・。」

ユーリはアッシュをチラリと見遣ると再び視線を新聞へ戻した。彼は挨拶返しをマメにするような殊勝な性格ではないのである。アッシュもそれが分かっているのか、笑みを浮かべるのみだ。まあ、ぶっちゃけた話、いつものことなので慣れたというのが真相である。

「わんこ〜、ユーリ、おはよ〜ん★」

そこにやってきたのは全身包帯塗れの青い髪をした男。妙に軽いノリの持ち主だが、彼もまたユーリのバンド仲間である。彼の名はスマイル。その正体は透明人間だ。断じてミイラ男ではない。

「おはようッス、スマイル。でも俺はわんこじゃなくて狼ッス。」

アッシュがスマイルに挨拶を返しつつ、やんわりと訂正。ユーリにいたっては顔を上げようとすらしなかった。アッシュと違って無視である。

「いいじゃん、わんこで。狼よりこっちの方が言いやすいよ?三文字で。」

「たった一字の違いじゃないッスか!だったらせめて名前で呼んで欲しいッス。」

「え〜。」

アッシュの抗議に不満そうに唇を尖らせるスマイル。そんな時である。

「あ!」

新聞に目を通していたユーリが突然声を上げた。

「どうしたんスか、ユーリさん。」

「ユーリ、どしたの?」

ユーリに目を遣り、不思議そうにするアッシュとスマイル。ユーリは珍しく呆然としていた。正確には、今まで忘れていたことをうっかり思い出して、少々動揺していたのだが。

「おい、アッシュ、スマイル。」

「何スか?」

「何?」

押し殺したようなユーリの声に相槌を打つ二人。

「四月といえば何だ。」

『はい?』

あまりといえばあんまりな質問に思わず聞き返す二人。

「いいから、答えろ。」

しかしユーリの視線が怖かったので素直に答えることにした。

「えーと、四月ッスよね。・・・やっぱり“春”とかじゃないッスか?」

「うん、春だね。花見〜、団子〜、カレー♪」

「カレーは春とか関係ないと思うッス。」

「・・・他には。」

彼らの回答に満足しなかったのか、ユーリが再度答えを要求する。

「他ッスか・・・?う〜ん、桜にタンポポ、パンジー、ヒヤシンス・・・。」

「エイプリルフール、みどりの日、入学式、ピクニック・・・。」

だんだん的外れな回答を出していく二人。あまりに掠りもしない答えにただでさえ短気なユーリの堪忍袋の緒が切れた。

「違ぁああああああう!!」

ダン!

ユーリは手をテーブルに叩きつけると自分が読んでいた新聞を彼らの鼻先に突きつけた。

「これをよく見てみろ!」

ユーリの白魚のような指が示した記事とは!?

 

 

2005/04/01完成)

 

 

 

第二話:うちの犬

 

『狂犬病予防接種〜!?』

「そうだ。」

 素っ頓狂な声を上げるアッシュとスマイルにユーリは頷いた。その新聞記事には犬の飼い主に予防接種を呼びかける旨が記されていた。

「私もついうっかり忘れていたのだが、この国では毎年四月に飼い犬に予防接種を受けさせるのが飼い主の義務らしい。」

渋い顔つきで言うユーリ。

「でも、俺達に何の関係があるんスか?」

アッシュの疑問ももっともである。彼らは別に犬を飼っている覚えは無い。

「うちに犬なんか居ないじゃないッスか。」

新聞を片手に首を傾げるアッシュ。しかしユーリは言った。

「いるだろう、うちに一匹。」

「は?」

アッシュにはユーリの言っていることがわからない。

「ああ!確かにいるよね〜、一匹。」

「スマイル?」

ニヤリと笑うスマイルに訳がわからなくなってくるアッシュ。

「ど、どういうことッスか、二人とも。」

「うーちのわ〜んこはでっかいぞ〜♪」

アッシュの疑問を無視して意味不明(?)な歌を歌い出すスマイル。

「一体何なんスか!ユーリさん!?」

「・・・まだ分からんのか、アッシュ。」

アッシュの様子にユーリが呆れたように溜息をつく。

「だって・・・うちに犬なんか――――――――――。」

「いるだろう、ここに。」

アッシュが言いかけた言葉を遮って、ユーリが彼の肩を叩いた。

「え゛・・・。」

アッシュの表情が凍りつく。

「うちのわんこは鈍感さんだねえ〜。」

「全くだ。」

スマイルの言葉にユーリが頷いた。

 一方アッシュの頭の中では混乱を極めていた。確かにスマイルは何度注意しても自分のことを『わんこ』呼びする。ユーリも自分のことを犬扱いすることはある。だが、彼の場合『犬=下僕』のような意味であり、一般に狼男より吸血鬼の方が高位の魔物であることから、彼らの一族は狼男を部下として昔から扱っていた話はよく聞く。だから仕方がないことだと、少なくとも今までアッシュはそう思っていた。だが、彼の物言いを聞く限りでは・・・

「ちょ、ちょちょちょ、ちょっと待ってくださいッス!ユーリさん!!」

「何だ、アッシュ。」

「も、もしかしてユーリさんの言う犬って俺のことなんスか!?」

「もしかしなくともその通りだが。」

「うわ!あっさり肯定しやがりましたッスこの人!!」

慌てて問い詰めてくるアッシュに平然と答えるユーリ。アッシュは魔物の身でありながら神に祈りたくなってきた。

「俺は犬じゃなくて狼ッス!狼男!!」

「犬も狼も似たようなものだろう。」

「全然違うッス!」

抗議するアッシュにユーリは悪びれもなく言い放つ。

「だが、生物の系統としては元々同じだろう?そもそも犬とは野生の狼を人間が家畜として飼いならしたのが初めと言われている。」

「そ、それは・・・。」

言葉を詰まらせたアッシュに、ユーリはさらに続けた。

「という訳で、四月は狂犬病予防接種の時期なんだ。私も面倒だとは思うがこれも飼い主の義務だから仕方がない。スケジュールを調整して今月中に病院に行かねばなるまい・・・。」

「はあ・・・。」

一瞬ユーリの言葉に納得・・・もとい、丸め込まれそうになるアッシュ。

「・・・て、ちょっと待つッス!飼い主って何ッスか!?俺誰かに飼われた覚えはないッスよ!!」

「何を寝惚けた事を言っている。私が主人で貴様が飼い犬に決まっておろうが。」

「俺は飼い犬じゃないッス!」

「え〜、似たようなもんじゃん。ここユーリの家だし。」

「ううう、それはそうッスけど・・・。」

スマイルの指摘に怯むアッシュ。そう、スマイルとアッシュはユーリの家に居候している立場なのである。

「で、でも家事全般を請け負っているのは俺じゃないッスか!どちらかと言えば面倒を看ているのは俺・・・すみません、何でもないッス・・・・・・。」

文句を言おうとしたが、ユーリに睨まれ黙り込むアッシュ。余程怖かったらしい。

「分かったのなら、今度予防接種に行くぞ。いいな?」

「あううう・・・。」

アッシュは心の中で葛藤していた。狼男のプライドとしては狂犬病予防接種を受けるなんぞ言語道断である。しかしユーリを怒らせるのは怖い。

「でもさ〜、ユーリ。」

そこへスマイルの能天気な声が会話に乱入してくる。

「何だ、スマイル。」

「わんこ、どうやって注射しに行くの?」

スマイルの言葉に黙り込むユーリ。どうやら彼の発言の意図を測りかねているようである。ユーリは目線だけでスマイルに続きを促した。

「だってさ〜、わんこ基本的に人間[この]姿じゃん。僕的にはわんこの姿の方が可愛くて好きなんだけど、わんこの姿だと御飯作る時困るし〜。」

「食事の話は今関係ないだろう。」

ユーリが一応ツッコミを入れる。

「でも注射打つ所って動物病院でしょ。今のわんこでも打ってもらえるの?」

「フン、そんなものは簡単だ。獣型になって行けばいいだけの話だろう。」

「あ、そっか。ユーリ頭いい〜。」

スマイルがパチパチと手を叩く。当事者であるアッシュを無視して話は進んでいった。

 

 

2005/04/03完成)

 

 

 

第三話:ミイラ取りがミイラになったり

 

 抵抗も空しく、狂犬病予防接種敢行が決定事項になってしまったようである。その事実にアッシュは酷くショックを受けていた。

(俺、犬じゃないッス・・・狼なのにぃ・・・・・・。)

滝のように目の幅涙を流してもユーリとスマイルは見事なまでに無視してくれている。それでも彼はこの事態に納得したくはなかった。目は背けていたかったが。

「あの〜、ユーリさん、スマイル。俺思うんスけど・・・。」

それでも勇気を出して口を開くアッシュ。

「狼男に普通の犬が使う薬、効果があるんスか?」

一歩間違えれば墓穴を掘る可能性もあるが、万が一に賭けて言ってみる。

『あ。』

ユーリとスマイルが今更気づきましたとでも言うようにポカンとした表情を浮かべた。

「こ、効果がないなら行く意味はないと思うッス。」

恐る恐るアッシュはこう告げた。どうか彼らが諦めてくれますように、と願いを込めて。

「う〜ん、どうしよっかユーリ。わんこが言う通り確かに普通の動物病院じゃ駄目かもしんないね〜。」

スマイルがユーリに尋ねる。それに対してユーリは無言。顎に手を当てて何やら考え込んでいる様子である。

「ふむ・・・、一箇所だけ心当たりがあるのだが・・・な。」

「あるんスか!?」

ユーリの爆弾発言に驚愕するアッシュ。

「だが、出来ればとは関わりたくなかったというか・・・。」

ユーリは何やら渋っているようである。

「でもそこなら大丈夫なんでしょ?」

「ああ、恐らくな。」

「ど、どういうことッス・・・か?」

震えそうになる声でアッシュがユーリに問いかける。

「あ〜、一応だな。私の知り合いに医者がいてな、そいつだったら何とかできるんじゃないかと・・・。」

「へ〜、そうなんだ〜。」

いつに間に取り出したのかぺろりんキャンディー(所謂大きな丸に渦巻き模様のついた飴が棒にくっついているヤツ)を舐めつつ相槌を打つスマイル。

「で、どんな病院なの?」

「知らん。」

『は?』

「話は聞いたことがあるのだが、実際に行った事はなくてな。確か内科から産婦人科までありとあらゆる種類の診察を受け付けているらしい。ニーズさえあれば妖怪でも治療するとか言っていたな。」

ユーリの説明に唖然とする二人。

「それに実際あいつの家は先祖代々医者でな。普通の人間から動物、未確認生命体まで様々な治療のデータを持っている。奴の先祖の中には、昔モンスター専門医なんてふざけた肩書きで欧州をふらついていた阿呆もいるしな。ノウハウだけならかなりのもののはずだ・・・。」

「・・・あ!俺もそれ聞いたことあるよ。噂でだけど。この国で唯一妖怪や魔物の治療を受け持ってくれる病院があるって。あれ、実在してたんだ〜。」

スマイルがポンと手を叩き、今思い出したと言いたげに口にする。

「あいつはアレに似て厄介な性格をしてるんでいろいろと面倒な事になりそうだが、背に腹は変えられん。今から奴に相談してみるとするか・・・。」

そう言ってユーリは溜息混じりに電話へ向かう。

「ユ、ユーリさん!?」

「良かったね〜、わんこ。いいお医者さん見つかって。」

「ス、スマイル!?」

(ぜ、全然良くないッスよ〜!)

アッシュの受難は始まったばかりである。

 

 

2005/04/04完成)

 

 

 

 

 

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