今年初めにサンフランシスコで開催されたMacworld での、スティーブ・ジョブズによる基調講演がアップルのサイトからQuickTimeムービーでストリーミング配信されています。
その講演の中で、20年前の1月22日、一度だけテレビ放映されたコマーシャルをスクリーンに再上映していました。そのコマーシャルとは、もちろん『1984』。以前「ヘッドライト・テールライト」の'02.8.30 付けで、このムービーがダウンロードできるURLを紹介しておきました。まだリンクは生きています。
私の勤務する会社の若いスイス人社員が、個人用に初めてのマックとして12インチのPowerBookG4を購入したというので、そういや、今年はマッキントッシュが誕生してから20年だ、という話題からこのテレビコマーシャルに話が及んだとき、割とパソコン通なのに、あの伝説のコマーシャルを見たことも、聞いたこともない、と言います。
そうか、若い人たちが知らないのも無理ないね、とアップルサイトのこのムービーを見せたら「Very cool!」と喜んでいました。ただ、「20年前の映像に1ヶ所だけ変更が加えられているけど、何だか分かる?」と問題をあげたら、これはさすがにすぐに見抜きました。20年前には無かったiPodがご愛嬌に女性アスリートの腰に乗っているんですね。
パーソナルコンピューターは家電や事務機としてよりも、60年代のカウンターカルチャーの中でそのビジョンが育ってきたという背景があります。それを象徴するのが、このコマーシャルで女性アスリートがスクリーンの独裁者に投げつけるハンマーと言えるでしょう。
20年経った今このコマーシャルを初めて見る人は、古さを感じないどころか、近未来映画のようなリアリティを感じ取るかもしれません。
このムービーの「悪の独裁者」は当時のコンピューターの巨人IBMをイメージしていますが、今では、仮想ではなくて現実の脅威として、マイクロソフトのイメージを重ねて見ることも容易でしょう。
個人を支援し、その能力を拡張するというビジョンの元に生まれてきたパーソナルコンピューター。時として、その反対物になって、人に苦痛を強いたり、自由な考えを押さえ込むことに使われてしまう場面も見られます。20年の間に、安価になり、高速になり、さらに小型軽量になったパーソナルコンピューターですが、一方では、20年も経つのに、はたしてどれだけそのビジョンに近づいたか、首をかしげることもあります。
『1984』が今でも新鮮さを失ってないとしたら、それは喜んでいられないことでもあるでしょうが、マック誕生とともにこのコマーシャルは、文化史上のひとつの歴史的事件として記憶される意味がある、と今でも思います。