ATバイク(04.7.4)


自動二輪にオートマ限定免許が導入されることになりました。来年の6月1日からの施行です。その背景に大型スクーターの人気の高さがあるようです。

クラッチなしの自動変速は、今まではどちらかというと、原付スクーターの専用物のようなものでした。大型スクーターに乗るライダーも、これまではオートバイからスクーターに乗り換えていたのでしょうが、オートマ免許を新規に導入するのは、大型スクーターに乗りたいがために自動二輪の免許を取得する層が増えてきているせいかも知れません。

それを裏付けるように、自動二輪の登録車数に占めるスクーターの比率が、ここ数年で大きく伸びています。 All About Japan のバイクガイドの記事によると、

「ここ数年自動二輪車の出荷台数に占めるATバイク(=スクーター)の割合が約60%にも達しており、保有台数ベースでも約30%を占めている」(『AT限定二輪免許導入決定!』 2004/06/08)
といいますから、これはもはや大型スクーターが、クラッチ付きのオートバイと肩を並べるように、ひとつのジャンルを形成していると言えます。 『Motorcycle Information』の2004年4月号のビックスクーター特集記事に掲載されている統計情報によると、250ccクラス以上のスクーター国内出荷台数は、1991年から94年まではほぼ9000台ほどで推移していたものが、1995年に急に16000台に伸びて、99年まで15000から20000台の間を上下します。そして、2000年から30000台程の一定した出荷となり、さらに2003年は一気に46000台へと急上昇しています。(下図)


graph of sales

排気量250ccクラス以上スクーターの国内出荷台数推移(メーカー調べ)

Kawasakiを含めたメーカー4社の力の入れようも並々ならぬもので、最近ではHONDAが FORZAをフルモデルチェンジしてHonda S マチックの搭載と、まるで四輪なみの装備で固めています。

そもそも、この大型スクーターのブームの火付け役は、1995年発売のYAMAHAのMAJESTYでした。このエッセーの『バイクデザイン考 ヤマハの場合』で触れたように、MAJESTYはそのデザインの秀逸さで人気を博したものです。それが、日常の通勤通学からツーリングまで、広い用途で活躍するようになり、じわじわと、それまでオートバイに縁のなかった人たちが、MAJESTYまたは他社の大型スクーターに乗りたいから、という理由で教習所で二輪免許をとるケースが増えてきたものと想像します。

クラッチ変速が当たりまえのオートバイに長く親しんでいるライダーの中には、自動二輪のオートマ免許なんて異端だ、と思う向きもあるかも知れません。しかし、考えてみると、四輪もオートマ車が当たり前になってしまっていることですから、AT限定二輪免許もあながち不自然なものとも思えません。

ただ、これにはメーカー側からの需要喚起の期待があるとも言われますが、それよりも、肝心の教習所が新しい制度とカリキュラムにすぐ対応できるものかどうか、不安があります。実習メニューにしても、オートバイの機動性を生かしたスラロームなどは、スクーター向きに条件を変更しないといけないんじゃないかしら。

それと、せっかく大型スクーターを教習所に配備するのなら、通常の自動二輪のカリキュラムに、希望者だけでも大型スクーターの実習などを入れたらどうか、とも思います。

かく言う私も、バイクを買うならどれにしようかな、といつも雑誌やWebサイトなどを眺めますが、ツーリング向きのバイクにこれぞというモデルが、なかなか見いだせません。とくに600-750ccの中間排気量の大型バイクが減ってしまい、大型というといきなり1000ccを越えた輸出モデルの重量バイクになってしまいます。その点、大型スクーターなら、街乗りでも、通勤、買い物の実用にも、またツーリングや長距離移動にも、気軽に乗れる利便さがあります。ライディングの服装に自由度があるのも、ありがたいことでしょうし、ヘルメットのみか、荷物を収納するスペースが大きいことも、乗る用途を広げてくれます。

もはや、これは、二輪の乗用車と言えるかも知れません。

それほどに、現在の大型スクーターは二輪車の概念と環境を大きく変えようとしています。マシンを操る楽しさという意味では、クラッチ変速のバイクに根強い人気がありますし、私も車はマニュアルシフトです。けれど、オートマチック変速が進化して、マニュアルの操作感に限りなく近づいたら、今のオートバイにもAT変速が採用されて不思議はありません。現に、かつてHONDAはナナハンにATバイクを投入した時期がありました。

今でこそ、ATバイクというとスクーターですが、AT変速機が軽量コンパクトになったら、オートバイにどんどん採用されて、ちょうど現在の乗用車のようにATがマニュアル車より多くなる日が、来ないとも限りません。バイクはレースのためばかりではありませんから。それでも、マニュアル車をずっと残して欲しいという、いささか古い世代のこだわりは残りますが。



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