4ヶ月前に『ハーレーダビッドソンの成長神話』で、日本でのハーレー販売が好調な反面、アメリカでは販売が減速、2007年の通期予想を下方修正したことで株価も大幅安になったことに触れました。はたしてこれは成長神話の陰りなのか?
つい先日、ハーレーのHPで2007年の第4四半期の販売実績が公表され、結局昨年度は通期出荷台数ベースでアメリカ国内向けが 241,539台、輸出が 89,080台、合計で 330,619台と、前年比マイナスになったことが報告されています。前回のコラムのグラフをアップデートすると下の左図のようになります。これまでずっと右肩上がりで販売を伸ばしてきたハーレーが、初めて出荷減に転じたことになります。同じハーレーのHPにアニュアル・レポートがPDFで公開されています。まだ2007年版はアップされていませんが、2006年版には過去10年間の出荷台数推移があります。それを下図の右に示します。この10年で販売台数が3倍になっていたことが分かります。とくに、アメリカ国内販売の上昇カーブが目をひきます。
では、そのアメリカ国内のバイク市場自体はどうなのか? ハーレーのアニュアル・レポート2006に、650cc以上の排気量の大型バイクについて、その登録台数の推移のグラフがあります(下図左)。それによると、2006年のアメリカ国内の全登録台数が 57万8800台、そのうちハーレーが28万1600台。出荷台数のデータの27万3212台とわずかなズレがあるものの、ほぼ同じ数字になっています。これを見ると、アメリカのバイク市場はハーレーだけではなくて、他のメーカーにとっても大きいことが見てとれます。2006年の登録台数のメーカー別内訳は、ハーレーが48.6%とダントツですが、次いでホンダ 15.1%、スズキ 13.1%、ヤマハ 8.8%、カワサキ 7.1%、その他が 7.3%、とあります。ハーレーのシェアは安定して48%前後です。10年でハーレーの販売台数が3倍に増えたのは、単純にバイク市場が3倍になったからと見ることもできます。
冒頭に示した出荷台数推移のグラフから、アメリカでの販売の落ち込みを輸出がいくらかカバーしていることが見てとれます。では、輸出先の内訳はどうなっているのか?
アニュアル・レポートには、販売台数ではありませんが売上収益の地域別内訳があります。それによると、アメリカ国内が 46億1900万ドルで 79.7%、ヨーロッパが 6億2110万ドルで10.7%、次に日本が来て2億780万ドルで3.6%を占めています。以下、カナダが3.2%、その他で2.8%。この日本での販売金額はハーレージャパンの発表している2006年度売上241億円と符合しています。この年の日本での販売台数は 14,026台。
一方輸出第1位のヨーロッパ市場はいかなるものか? 上の図の右が650cc以上のバイクの販売台数(登録)の推移です。2006年が 37万6800台。アメリカの58万台には及びませんが、それでも大市場です(ここでヨーロッパとは、東欧を含まず、西欧および北欧)。しかしヨーロッパでのハーレーのシェアはそれほどでもなく、34,300台と9.1%にとどまっています。因みに、各メーカーのシェアは、1位がBMWの 16.5%、以下日本勢のヤマハ、スズキ、ホンダ、カワサキがそれぞれ、15.5%、14.8%、14.6%、10.7%と続いています。日本メーカーで55.6%を占めることになります。やはり、ヨーロッパはレーサー、スポーツバイク志向なのでしょう。ヨーロッパの大型二輪市場はアメリカのような上昇カーブは描いてはいませんが、それでも拡大傾向にはあります。ハーレーはシェアこそ低いものの、10年で販売台数を2倍にしています。
こうしたデータから、これまでのハーレーの成長は、アメリカ市場の拡大、つまりアメリカ経済の好調をバックにしたものであることが見えてきます。それはそもそも大型バイクが趣味性の強い乗り物であることから、当然の帰結とも言えます。アメリカのサブプライムローン金融破綻の影響の波及はまだまだこれからですので、それはハーレーの今期の業績予想をも直撃することが予想されます。その分を、日本やヨーロッパでの販売が補うことができるかというと、先進国は先進国で、温暖化ガス問題と相まって、これから排ガス規制と騒音規制が二輪、とくにハーレーに、逆風になることも考慮しないとなりません。日本では二輪市場は成熟しているものの、とりあえず2007年のハーレー販売台数が14,967台と、これまでの好調な前年比アップ記録を更新中です。