バイク・ロンダリング (08.9.13)


ロンダリングとはランドリーと同じ語源のlaunderからのカタカナ語で、洗濯、洗浄という意味です。

もっと正確にいうと、コンサイス・オクスフォード辞典(第八版 1990年)には、本来の意味として「(服や布などを)洗ってアイロンをかけること」と語義を説明した後で、慣用的表現として「(資金を)その不審不正な素性を隠すために転がすこと」(transfer (funds) to conceal a dubious or illegal origin)とあります。

ですのでもともとは、マネー・ロンダリングと、銀行口座を転々とさせることで、お金の出所、入手経路を分からなくするための「洗浄」行為を表していました。お金は移動が簡単なので、このように命名される前から日常茶飯に行われていたものでしょう。

最近では、カネに限らず、モノについても、その原産、径路を偽って流通させる不正行為にロンダリングの呼称が使われます。今ニュースになっている事故米の不正転売は、業者を7社も経由することで、汚染された米を「食用米」に洗浄したものですから、いわばコメ・ロンダリング。

このロンダリングは盗難バイクを海外へ不正に輸出する際にもよく使われる手口です。

まず日本から輸出手続きをするときには、大型バイクはそのほとんどが分解されて、パーツとして輸出申請されます。その際、バイクのIDとしての「車台番号」の刻印されているフレームは正規の廃車証でもないかぎりインボイスにその番号が明記されることはありません。もしもフレーム番号の記載があれば、税関でただちに当サイトの検索でヒットして足がついてしまします。

ところが、輸入国側では輸入申告にフレーム番号の入ったインボイスが必要になります。ナンバー登録するためにそのバイク(フレーム)がたしかに「正規に輸入」されたことにするためです。したがって、日本側の輸出者と相手国側の輸入者はたいがいは示し合わせて、輸出申告用のインボイスと、輸入申告用のインボイスを使い分けることになります。

しかし、この手口は調査すれば簡単にバレてしまいますので、第三国を経由するロンダリングが行われます。

たとえば、日本からタイへバイクを輸出するとします。直接タイへ送らず、いったん香港の会社へ販売します。香港では会社を作るのも簡単で、ペーパーカンパニーも同様です。さらに香港では受けた貨物をそのまま別の国へ「転売」するのも容易です。したがってタイで輸入通関するときは、香港からの輸入貨物となって、日本からの船積み履歴が洗い流されることになり、香港ータイ間ではまったく正規に輸出入の手続きをとれます。

バイク窃盗というと、まずだれもが思い浮かべるのは、実際にバイクを盗み出そうとする、サングラスと帽子をかぶった怪しげ2-3人組、というところでしょうか。でも捕えてみれば、実行グループは「正社員」というよりもパートやアルバイトだった、という実態があります。主犯格は手の込んだロンダリングに長けた国際的知能犯で、自国内にしか目の届かないローカルの捜査当局にはやっかいな相手ではあります。

ロンダリングという視点からすると、ネットオークションも同類です。ただ、国内ではフレーム番号とエンジン番号で足がついてしまいますので、フレームとエンジンは出ないで、そのほかのパーツを転売するのが普通です。

バイクがマネーやコメと違う点は、個体識別のためのIDがあることで、VIN(車台番号)がそれにあたります。車両の製造から登録、廃車、転売まで、すべてこのVINで履歴を管理すれば「洗浄」ができなくなります。国際的窃盗組織の末端の実行班を捕まえることよりも、転売をできなくする法整備のほうが、ずっと効果的のように思っています。

日本国内でだけバイクを楽しめればいい、海外のことなど関係ない、と考えているかも知れないライダーも、いやがおうでも犯罪のグローバル化に巻き込まれているのが現実である以上、モノとカネが国境を渡るとはどういうことかちょっと考えてみると、これまで見えなかったものもなにか見えてくることでしょう。


参照:CBX10周年特集
 『CBXデータベースの10年』('08/8/9)
 『バイク盗難統計の10年 』('08/8/10)



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