CREEP


「ハァ……」
「どうした?浅倉」
 放課後の美術室で、いつものようにキャンバスに向かっていた悦司に、中村が心配気に問いかけた。

「え……?」
「ため息なんか付いて…、なんか元気ないし。…そういえば、今日は飛鳥来てないよな。………ケンカでもした?」
 その言葉に、悦司は視線を下げてうつむいた。

「ケンカ…っていうか……、俺、小さい時この辺に住んでた事があって、その頃に中津川に会ってるらしいんだけど、なんでか全然思い出せなくって……。それで怒らせたかも…」
「えっ…、浅倉、憶えてないのか……?」

 …は………?

「…て事は、俺やっぱり中村にも会ってる…?」
「ああ〜…、いや、俺は一回しか会ってないから、憶えてなくてもしょうがないけど……」
 でも、中村はちゃんと憶えてる……。なんだ?この差は…。記憶力の違い…?

「俺って、バカだったんだ……」
「え!?」
 唐突な悦司の呟きに、中村が驚いて声を上げた。
「だから、いくら勉強しててもアノ中津川にも勝てないんだ…」
「え、ちょっ…、浅倉?!」

 悦司は、戸惑う中村の声も耳に入らない様子で、溜め息をついて窓の外を見上げた。

 アイツはきっと天才だから、俺の記憶力の無さなんて理解できなくて呆れたんだろうな…。
 ちょうど良かったじゃないか…。これであの変態じみた言動に振り回されなくて済む。

 ちょうど…良かったじゃないか。


せっかく

この学校に来て
最初にできた

友達だったのにな……


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