CREEP


「お〜い、浅倉ー!」
「?」
 部活を終え、寮に戻ろうと学校の敷地内を歩いていると、後ろから声を掛けられた。
 ちなみに華宮高校の学生寮は、校内の図書館を挟んで学校と隣接しており、もちろん校門から出て寮の正門から帰る事もできるが、ほとんどの寮生は学校内と寮の敷地内を直接結んだ通用門の方を利用している。悦司はちょうど図書館の前を十数メートル程通り過ぎたところだった。

「…二階堂?」
 振り返ると、同じクラスの二階堂舞(にかいどう まい)がこちらに走って来ていた。舞は真壁弘人と幼い頃からの親友らしく、いつも一緒にいる事が多いのだが、今は一人のようだ。それにしても、彼がわざわざ呼び止めてまで自分に用事があるなど珍しい…。

 悦司が立ち止まって待っていると、追いついた舞は、なぜかニヤリと笑った。
「ちょっと今すぐ図書館行ってみろよ。珍しいモンが見れるぞ」
 舞の言葉に、「?」と悦司は首を傾げた。
「図書館?…今から?」
「おお。図書館の奥の方にさ、洋書が並べられた一角があるだろ?そこの一番奥に足音立てずに行ってみろよ。じゃな!」
 それだけ言うと、舞は来た時と同じように、今度は背中を向けて校門へと走り去ってしまった。もう一度振り返り、「足音立てんなよっ、ソ〜っとだぞ!」と叫ぶ舞に手を振りながら悦司は、(あいつも、黙って座ってれば美人なのにな…)と、ちょっと失礼な事を思っていた。

 さて、どうしようか。
(別にこれから用事も無いし、行ってみようかな…)

 しかし、ひょっとして舞は、学校が終わってから今までずっと、図書館で勉強していたのだろうか?確か彼は、どこの部活にも所属していなかったはずだ。
 先日、「英語で100点を取るとご褒美がもらえる」とかいう話を飛鳥(とびと)としているのは聞こえていたが、どうやら本気で狙っているらしい。……まあ、その話の中で、思わぬ真壁弘人の本性を垣間見てしまったりもした、忘れられない一件なのだが…;〈『Fallin'』参照〉

 真壁には、ちょっと本気で注意しなきゃな…;などと考えているうちに、目的の場所に辿りついた。舞に言われたとおり、ゆっくりと息を殺して奥に進むと、時折カサリと紙をめくる音や、何かを書き込む物音が聞こえた。
 やがて最後の本棚の壁に辿りついた悦司は、そこからそっと顔だけ出し、窓際の隅を覗き込んだ。


 …え………。

  小説 TOP