CREEP
11


 よ…余計な事、訊かなきゃ良かった。
 しかし後悔先に立たず…。

「え〜つし

 う………。

「なんだよぉ、俺たち両思いじゃん ラブラブ?」
「だ…黙れ」
 チッ。やっぱりバレてる。くそっ…。

 しかし実は、飛鳥(とびと)としては今のは、いわゆる“かま”をかけたのだ。
 この近辺で自分と妹の他に、金髪の子供はいなかったはずだ。それで悦司が初恋の子だと主張した妹が、実は悦司に会っていないとなれば…。当然、その初恋の相手というのは…。

(俺…だろ)

 でもそれは間違いで、「ハ?」とか言われたらどうしようっ と、内心ではドキドキしていたのだが、否定しない悦司に、飛鳥は踊り狂いそうな喜びに胸を弾ませていた。

「そっ…、それより!」
 飛鳥が何か言おうと口を開きかけたのを遮るようにして、悦司がわざとらしく大きな声を出した。話題を変えようとしているのに飛鳥も気が付いたが、あまり突くのも可哀想なので、あえて乗ってみた。

「ん?」
「お前、なんか俺に、俺のせいで自分がこんなふうになった、みたいな事言ったよな?アレはどういう意味だよ」
 悦司のその言葉に、飛鳥は大げさに溜め息をついてみせた。
「はぁー―、もう、ヤだなぁ〜。だって悦司が俺に「女の子と仲良くしろ」って言ったんじゃん」

「は?」

 悦司は、大きな目をこぼれんばかりに見開いた。

「俺が『みんなにイジメられる』って言ったらさ、『ホントに“みんな”なのか?』って訊かれて―――」



「ん〜ん。女の子たちは優しい…」

「じゃあ、女の子と仲良くしろよ。お前をイジメるような男なんか無視すればいいんだ」




 …ああ、言った。言いました。
 なんてこった、確かに言ったよ。「女の子と仲良くしろ」ってね。
 だってしょうがないだろ?目の前のその子も女の子だと思ってたんだから。

「ヒドイよなぁ〜、俺は悦司の言い付けを守って、ずっと女の子を大事にしてたのに、悦司ってば自分だけすっかり忘れて、再会した俺に『変態』だの『タラシ』だの言うんだからっ」
「う…、そ、それは…悪かったよ。でも…、ホントにお前があの子なのか……?」
 あの子が…、成長してコレ?

「悦司…、いくら俺が天使のように可愛かったからって…、マジで女の子だと思ってたんだ…?」

「………
 可愛…かったんだよな。本当に。
 長いまつ毛に縁取られた形のいい大きな瞳、マシュマロのような白い頬、腰まで伸びた綺麗なプラチナブロンド…。
 どこを見て男だと気付けと?

「あの頃、悦司の方が背も高かったもんな〜。俺なんか小学校の2〜3年くらいから背ぇ伸びだして、今180あるからな。女の子だと思ってたんなら、余計気付くわけないか…」
 でかいと思ったら180cmもあったのか…。まったく羨ましい。

「悦司って今、何cm?」
「……160」
 飛鳥がフッ…っと笑った。
「…何だ」
 人の身長を聞いて、笑うとは失礼な。そりゃ、お前に比べりゃチビだよ。いや、お前と比べなくてもチビだよ。わかってるよ。笑うな、クソッ。俺はお前と逆で、中学にあがってすぐに身長が止まったんだっ悪いか!

「いや…、160って言うって事は、もしかして正確には159だったりして…と思って。てゆーか、俺も正確には179なんだけど、どうせそのうち伸びるだろうから、180って言ってるんだよね」

「………」
「え…悦司?」

 このヤロウ……。
 「159だったりして」だと?「どうせそのうち伸びる」だと!?もうこれから伸びる見込みのない俺に向かって!

「俺…、やっぱり今のお前は嫌いだ」

 図星を指されて怒りに震える悦司を前に、飛鳥は平謝りに謝るが、もう後の祭りだった。

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