Fallin'
13


「舞!!」
 バタン!と、扉が勢いよく開く音と共に聞こえてた耳慣れた声に、両ひざの上におでこを乗せた姿勢でうなだれていた舞は、驚いて顔を上げた。

「弘人!?」

「!」
 舞の声を聞いた弘人は、掃除用具室の鍵を開け、急いで扉を開ける。…一瞬キツネにつままれた様な気分におちいるが、すぐに視線を下に向けると、手足をベルトでしめられ、捨てられた子犬のような顔で自分を見上げている舞と目が合った。

(クッ…、なんて刺激的な……!俺の理性を試しているのかっ?)

「助かったぁ〜」
 弘人の心情など全く知らない舞は、心底安心している。

「……誰にやられたかは後だ。もうテスト始まってるから、急いで戻ろう」
 煩悩を押さえて、素早く舞の手足を拘束しているベルトを外した弘人は、ふと気が付いて問い掛けた。
「……このベルトって、…もしかして舞の…じゃないよね?」
「え?ああ、俺の」

ベルトを外されたのかっ!?

「えっ!?」
「何もされていないだろうな!?どっ、どこか触られたりっ…!!」
 普段冷静な弘人に両肩を掴んで問い詰められ、舞は思わず後ずさった。必死の形相が怖い…。
「ちょっ、お…、落ち着け!なにもされてない!手足縛られただけっ。その為のベルト!わかった?」
「…本当に……?」
 舞の言葉にちょっとは落ち着きを取り戻したものの、まだ心配そうな顔をしている弘人に「ホントだって」と笑って、右手で弘人の左肩をポンポン撫ぜた。

「舞……」
 弘人は大切な宝物を扱うように、舞を優しく抱きしめた。
「なんか…、また迷惑かけちゃったみたいで、ゴメンな」
「構わないよ。心配したけど、迷惑なんかじゃない。……さっ、もう戻ろう」
 出来れば、いつまでもこうして抱きしめていたいが、今は時間が無い。

「あ、でももう少し落ち着くまで休んでから行こうか?」
 何事かあったであろう舞を気づかって提案するが、舞は「いや」と首を振った。
「なんか、むしろ変な緊張が取れて落ち着いてる。行こうぜ?」
 言葉通り、妙にスッキリした顔をしている舞の姿に、弘人もクスリと笑みをこぼす。

「そうか…、じゃあ行こう。……舞のベルトを外した犯人については、後でゆっくり聞かせてもらうよ」
「(やけにベルトにこだわるな…;)つっても俺、あいつ等の名前知らねーし……」
「(あいつ等?…複数犯か)顔は憶えてるだろう?」
「うん…、まあ」
「それで充分だよ…。舞は自分が見聞きした奴等の情報を、俺に教えてくれればいい」

 心なしか黒い笑顔でそう言う弘人に、舞はヒヤリと悪寒を感じた。

(弘人って……、時々ホントに………いや、やめておこう)
 ヘタな事を考えると、心まで読まれていそうで怖い;





 その日の放課後、便器に顔を突っ込んだ形で気を失っている4人の1年生の姿が、用務員の手によって発見されたとか、されなかったとか……。

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