Fallin'
14


 今日は、とうとうテスト結果が明らかになる。
 4人組によってトイレに閉じ込められた時には、もう駄目かと本気であきらめそうになってしまったが、幸いすぐに弘人が駆けつけてくれた為に、それ程のハンデにはならなかった…はずだ。
 舞は、千歳が一人々々の名前を読み上げテストを返していく声を、緊張の面持ちで聞いていた。

「二階堂舞君」
「はっ、はい!」
 勢いよく立ち上がり、返事をした舞に、千歳はクスリと微笑をもらす。
 緊張した足取りで自分の前に立った舞に、ニッコリ笑ってテスト用紙を差し出した。

「…おめでとう」
「……え?」
 その言葉に、慌てて受け取った用紙を確認すると…。

「……あ…」

「舞君は100点です。…頑張っていた姿を、先生も知っています」
 千歳の言葉に、クラス中が「オオーッ」と歓声を上げる。弘人もホッと胸をなで下ろした。
「ちーちゃん……」
 舞の目にみるみる涙がたまっていくのを見て、千歳は特別扱いはいけないと思いつつも、ついついヨシヨシと頭を撫ぜてしまう。

「やったな、舞ちゃん!これでご褒美ゲット!!」
「っば、バカッ!」
 舞は、大声でご褒美の事を口にした飛鳥(とびと)を慌てて止めに入るが、当然もう千歳には聞こえている。

(ご褒美…?)
 しかし、まさか自分に関りのある事だとは思っていない千歳は、きっと弘人とでも何か約束したのだろうとしか思わなかった。
「やけに頑張ってると思ってたら、そういう事だったんだね」
「う……」
「でも、目的はどうあれ100点取れたのは凄いよ。おめでとう」
「………」
 笑顔で「おめでとう」を言う千歳に、さすがに罪悪感を隠し切れない舞だった。





「なんか…、いざ こうなっちゃうと、どうしていいか分かんなくなってきた……」
 その日の放課後、二人きりとなった教室で、舞は弘人にこぼした。
 后(きさき)の出した案は、100点を取れたら“別れる”ではなく“願いを聞き入れる”だ。つまりは、「他の“愛人”ならぬ“情夫”と別れて、千歳一人を大切にするように」と告げる事も出来る…、という事だ。
 舞は今、千歳にとって一体どちらが幸せなのか選びかねていた。もちろん、舞の気持ちとしては別れさせたいのは当然なのだが、千歳の方には別れる気持ちは無いようで、何よりも、誰に強制されるでもなく千歳自身の意思によって、この14年間后の情夫として寄り添ってきた現実がある。

「もし、ちーちゃんと別れてくれって言ったらさ…、后きっと、俺との間の話は教えないで、一方的にちーちゃんを…切り捨てるっていうか…。ちーちゃん、訳わかんないままだと思うんだよな……」
 訳も分からず別れを告げられた千歳が、どれだけ悲しむか……。あの繊細な人が悲しむ様など見たくはない。

(なるほどね……)
 もしかしたら后は最初から、舞がこういう壁にぶち当たる事を見越して、わざとこの様な提案をしたのかも知れない。やっぱり食えない人だな…と弘人は思う。

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