Fallin'
15


「別に、理事長から「いつまでに答えを出せ」とかは言われてないんだろ?…どっちを選ぶにしても、ゆっくり考えて決めた方が良いよ」
 安心させるように弘人が優しく微笑んだのを見て、舞にも笑顔が戻った。
「うん……。そうだな」



「ところで、舞?」
 突如、話を変えるように明るいトーンで声を出した弘人に、舞は首を傾げる。

「ん?」

「俺は今回も、結構重要な役目を果たしたよね?」
「へ?あ、…うん。ちゃんと英語のテスト受けられたのも、弘人のおかげだもんな」
「俺もご褒美ほしいな?」
 カワイコぶって小首を傾げながら自分の唇を指差している弘人に、舞は目をむ開いた。

「はっ!?」
「俺達の間で“ご褒美”って言ったら、チュウに決まってるよね?」
(いつ決まった!?)

「……ね…、ねずみのモノマネ?チューチュー、…なんつって」
 苦し紛れにごまかしてみると、無言のままで弘人の笑顔が深まり、なぜか恐怖で背中があわ立った。

「わっ、わかったよ!目ぇつぶれっ」
「あ、今回は逆ね?俺からするから、舞が目つぶってて」
「う……、なんで…」
 どっちでも一緒だろ、と舞は思ったが、これ以上機嫌を損ねるのは恐ろしい気がして、文句を言いつつも素直に従った。

 目をつぶった舞の頬にそっと触れ、優しく撫ぜる。舞の体がビクリと震えたのを見て、いとおしさに胸が高鳴る。
(俺だって損な役回りで頑張ってるんだから、これくらいの報酬は貰っても良いよね?)
 弘人は、舞の男にしては綺麗な唇に、思いを込めて自分の唇を重ねた。

(な……な…、長くないかっ?てゆーか…、うわっ口動かすなっつの!こそばゆい!!)
 弘人が動くたびに、むずがゆいような感覚が唇に広がり、なんとも居たたまれない。
(俺たち何やってんの?大丈夫なのか?俺と弘人は友達だよな?なんか変な方向に進んでないか!?)

 一瞬で終わると思っていたはずが、異常に長い弘人のキスに、舞の頭はパニック寸前だった。しかし、突如響いた教室前方の扉が開けられる音に、ガガッと座っていた椅子ごと後方へ引き、反射的に弘人から離れた。

「っ!!」
 恐る々々、視線を扉のある斜め前方へ移すと、そこには如何にも“可愛い甥っ子の衝撃シーンに固まってます”という雰囲気で立ち尽くす千歳の姿があった。

「……まー…くん…」

ギャアアアァァァァ!!

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