ヘリオブルー
レディッシュ


「ああ、共一?いるよ。――― 共一…、お客さん」

 笑顔で返してくれた遙に安心しつつ、ほっと息をつくと、遙と生一の間に立ちはだかるように無表情の共一が現れた。
 遙と同じ程度の身長…。最後に会った時は、もっと目線が近かったはずなのに……。

(キョウ…、また背伸びたんだ……)

 162cmで伸び悩んでいる生一に比べ、どんどんと差をつけていく共一の身長…。二卵性とはいえ、同じ親から産まれた兄弟だというのに、二人は全くと言っていいほど共通点の無い双子だった。
 容姿一つとっても、生一が母親似で柔和な顔立ちなのに対し、共一は父親似の男らしいキリッとした男前。性格だって活発で友達も多い共一の後を、生一はいつもオドオドと付いてまわっていたのだ。

 そんな生一に、いつも優しく手を差し伸べてくれていた共一……。

それなのに……




「なんの用だ」

 冷たく吐き捨てられた声に、現実に引き戻される。見上げると、共一が不快気に自分を見下ろしていた。
「あ…、あの、僕の部屋、6号室になったんだ…。そ、それで、学校のクラスはね……」

「だからどうした」

「…え……」
「そんな事、俺に関係ない。一々報告に来るな。…用がそれだけならとっとと自分の部屋に帰れ」

「えっ…、キョ……」

バタン

 無情にも目の前で閉じられた扉に、立ち尽くす事しかできない。



 キョウ………。



どうして…?
キョウ………




 子供の頃は、確かに仲の良い兄弟だったのに……。
 共一が先に小学校に上がってしまってからも、いつも共一は生一の事を気づかってくれていた。それなのに…。
 いつの頃からか、共一は生一を避けるようになり、高校も寮のあるこの華宮男子校に行ってしまった。生一には何の相談もなく……。
 幸い、生一も成績は悪くなかったため、共一を追って無事、華宮に入学する事ができたが…。

(やっぱり迷惑だったのかな…。僕のこと、そんなに嫌いになっちゃったのかな……。でも、僕はキョウと仲の良かった頃に戻りたいよ…。たった一人の大切な双子の兄弟で…キョウのことが大好きだから……)





「今の誰?」
「………弟」

「ふう〜〜ん…」

 意味あり気に語尾を伸ばす遙に、共一が苛立ちを含んで振り返ると、口元に笑みを浮かべたまま探るように目を細めている遙と目が合った。
「…何だ」
 低い声で問いかけてきた共一に、遙はクスクスと笑いながら耳元に唇を寄せた。

「冷たいんだなー、オニイチャン。あんなに可愛い弟なのに…」
「余計な世話だ」
 共一は遙の肩を押しのけると、大股で自分の机に向かった。ドカッと椅子に座り、読む気もない本を開く。

 まさか本当にこの学校に来るとは…。

(あのバカ……)

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