ヘリオブルー
レディッシュ


「なぁ鈴久那―――」

 入学から一月が過ぎ学校にも慣れてきた頃、休み時間の教室で一人のクラスメイトが生一に声をかけた。

「? なぁに?」
「2年の鈴久那共一って先輩さ、もしかしてお前の兄ちゃん?」
「あ…、うん。そうだけど……」
「やっぱそうかぁ…」
 なにか言いたげなクラスメイトに生一が不安げに首を傾げると、彼は「いや〜…」と笑って誤魔化そうとした。

「ちょっとっ、言いたい事があるなら言いなさいよ!ハッキリしない男ね〜っ」
 しかし、生一の隣から割って入ってきた蘭丸に圧され、しぶしぶ口を割る。
「なんかさ、先輩から聞いたんだけど…。その鈴久那共一って先輩と清水なんとかって人がデキてるって噂があんだってさ」

 清水……。


「清水…遙……?」
「あ、そうそう。それ!」
 生一は、思わず遙の名前を口に出していた。
 共一とは初日の一件以来、寮の食堂などで出くわしても目も合わせてもらえないが、遙はそんな共一を尻目に、いつも優しく声をかけてくれていた。

「………」
「適当な事言ってんじゃないわよっ、ただの噂でしょ?」
「でも先輩、その二人が階段の踊り場でキスしてんの見たんだぜっ」
 そう言うと、そのクラスメイトは「お前らが聞きたがったんだからなっ」と言い残し去っていってしまった。

「………」
「…気にする事ないわよ、せいちゃん。キスって言ったって友達同士のふざけたキスだってあるんだし…」

「…うん……」

 黙り込んでしまった生一を蘭丸が慰めるが、生一の心は晴れなかった。
 生一が知っている限り、共一はたとえふざけてでも友達同士でキスをするようなタイプではなかったはずだ…。

(デキてる…って、恋人ってことだよね……)

 こっちに恋人ができたから、自分がいると邪魔なのだろうか…。
 …確かにそうだろう。もしも今の自分が子供の頃のようにまとわり付いたりしたら、共一だけではなく、今は優しく接してくれている遙だって、邪魔に思うに違いない…。

はぁ……。

 二人の姿を思い浮かべ、生一の気持ちは重く沈んでいった。

  小説 TOP