ヘリオブルー
レディッシュ


「どうぞ〜」
「あ…、おじゃまします…」

 蘭丸の暮らすマンションについた生一は、促されるまま廊下を渡り、リビングへと足を踏み入れた。

「すごい……広いね」
 部屋の広さに驚いた生一が感嘆の声をあげてあたりを見回すと、素直な生一の反応に、蘭丸が楽しそうに目を細めた。
「そうなのよ〜。理事長が知り合いのよしみでまけてくれたから良かったけど、それでもちょっと予算オーバーだったみたい。でもここ、警備員常駐でセキュリティ面が他とは比べ物にならないくらい良いから、両親がここにしなさいって。このマンション、バス・トイレはもちろん、全部屋に警備室直結の警報器が付いてんのよ〜?これじゃ泥棒も避けて通るわよねっ」

「??…理事長?」

(知り合い…。まけてくれた…って?)

 生一は、どこから訊ねるべきかもわからず、小動物のように首をかしげた。
「あ、ここね、理事長のマンションなのよ。それでね、理事長とは実家がご近所さんで、私のパパが開いてる空手道場の門下生だったの。理事長が家に制服のスカート持って挨拶に来るまで、あの后(きさき)さんだとは気付かなかったわ〜。あの人、道場でもモテモテだったのよ〜」
「そ…そうなんだ」
 蘭丸は「まぁ、私の好みではなかったけどねぇ」と、床に散らばっていた雑誌を片付けた。

 実家が空手道場……。似合わない。

 しかし確かに、見た目に反して蘭丸の体格は結構しっかりしている。むしろ生一の方が私服で歩いたら女の子に間違えられるかも知れないくらいだ…。
「あっそうだ、せいちゃん甘いもの平気?」
「え?うん。好き…」
「ホント?良かったぁ〜。実は、昨日ちょっとヒマだったから、キャラメルクレープ焼いたのよ〜」
「キャラメルクレープ?」
「そ。ミルクレープの要領で、焼いたクレープ生地と生クリーム、キャラメルペーストを何層も重ねたの。どうぞ召し上がれ
 蘭丸は、説明しながらもいそいそと冷蔵庫から出したキャラメルクレープを小皿にのせて、生一に取り分けた。

「…いただきます」

 頬を染めて微笑む生一に微笑み返し、フォークで一口サイズに切られたクレープが、生一の桜色の小さな唇に運ばれていくのを、蘭丸は固唾をのんで見守った。

「…おいしい」
「ほ…ほんとに?」
「うんっすごく美味しいよ。こんなの食べたことないっ…」
 実際、やわらかいクレープ生地と生クリームに挟まれたキャラメルが、冷蔵庫で冷やされた事によりさくさくに固まり、口の中でシャリシャリと心地いい食感を生み出しており、本当に美味しかった。

「ふふふっ良かったわ〜♪実は私のオリジナルなのっ」
 生一の反応に安心した蘭丸が自分の分を取り分けながら言うと、生一は目をまん丸くして驚いた。
「え?じゃあこれ…蘭ちゃんが考えたのっ?すごい…。お店開けるんじゃ…」
「やあねぇ〜、せいちゃんってば大げさっ。このくらいじゃお店なんて出来ないわよっ」

(もぉ〜〜〜!せいちゃんたらカワイイんだから〜〜!!大好きっ


 とりあえず、餌付け成功…?

  小説 TOP