ヘリオブルー
レディッシュ


「ご馳走様。…すごく美味しかった」
「お粗末サマっ。……元気出た?」

 蘭丸お手製のキャラメルクレープを食べ終え、小皿にフォークを置いた生一は、優しく微笑む蘭丸のその言葉に、息をのんだ。

「…うん。ごめんね?急に泣いたりして」
「ふふっ、いいのよ。せいちゃんは何してもいいの。泣いてもいいし、怒ってもいいし、おもいっきり笑ってもいいのよ?せいちゃんって、そういうの我慢しようとしちゃうタイプでしょ。ダメよ〜、私の前でそんな我慢は許されないんだからっ。わかった?」
「うん。…ありがとう、蘭ちゃん」
 蘭丸によしよしと頭を撫ぜられ、生一はくすぐったさに身をよじって笑った。

 共一によって与えられた痛みは、半分ほどに消えていた。





「あ〜〜ん、蘭、足が痛〜い!」

 なんなんだ……?

「一人じゃ歩けなぁ〜い!」

 1年に女装した奴が居るというのは知っていた。入学式から噂の的だし、俺も昨日、生一と一緒にいる所を目撃したばかりだ。
 いや、そんな事はどうでもいい。問題は、なぜその女装の1年生が2年生の教室の前に座り込んでいて、そしてなぜ―――

「共一センパ〜イ、肩をかして〜〜〜ぇ」

 なぜ俺が助けを求められているのか……。



「共一、助けてあげなよ」
 隣でアッサリと笑顔で言ってきた遙をにらみつける。
「なんで俺が」
「えー?なんでって、共一をご指名だよ?このままじゃずっと共一の名前を叫ばれ続ける事になりそうだけど、それでもいいの?」
「くっ……」
 共一は苦々しい顔で蘭丸の前まで歩み寄ると、片手で蘭丸の腕を掴み、乱暴に引っ張り上げた。

「あ、私、せいちゃんと同じ1年B組なんですぅ。よろしく〜」
「足が痛いなら、保健室じゃないのか?」
 共一の肩に腕を巻きつけてもたれ掛かってきた蘭丸に、ジロリと冷たい視線を向けると、
「教室で座ってれば治ります」と笑顔で返された。

(てゆーか、重い!なんなんだコイツはっ!)

 蘭丸の身長は共一とほぼ同じで、空手で鍛えた筋肉質な身体は見た目よりもずっと重い。筋肉の重さは、同じ量の脂肪にくらべて約2倍の重量があるのだから、当然である。蘭丸はその身体で、ワザとかというほど体重を掛けてきているのだ。

(せいちゃんを泣かせた怨みっっ)



 共一は、重いオカマを引きずりつつ、教室前を後にした。

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