ヘリオブルー
レディッシュ


「蘭ちゃん!どうしたの!?」
「あ、なんでもないのよ〜。ちょっと足を痛めちゃってよろけてたら、たまたま近くにいた共一先輩が助けてくれたの」

 負傷兵のように共一に引きずられて教室に現れた蘭丸の姿に驚いて、生一が慌てた様子で駆け寄ると、蘭丸は自分を心配している生一に鼻の下を伸ばし、ヘラヘラと手を振りながら共一から離れた。

(何がたまたま近くにいた≠セ……)

「あ……」
 生一を見ると、突然目の前に現れた共一にうろたえているらしく、蘭丸と共一の間を行ったり来たりと視線が定まらない。

「生一」

 名前を呼ぶと、ピクリと震えて恐る々々顔を上げる。
 その怯えたような様子に小さく溜息をつき、生一の小さな頭をこぶしで軽く小突いた。
「友達なんだろ?このバカが今後アホな事しでかさない様にちゃんと見張ってろ」
「え?…う、うんっ」
「なによ〜ぉ、バカだのアホだのと失礼ねっ」
 共一はフンと鼻を鳴らすと、背を向けその場を後にした。



「ほんと似てないわね〜。性格まで正反対っ」
「うん……」
 どこか心ここにあらずといった風で共一の去って行った方向を見つめている生一に、蘭丸の胸中は複雑だった。

「名前呼ばれたの久しぶりかも……」
「は?」
「いつも『おい』とか『お前』だったから…」

(何よソレっ!?熟年夫婦かっての!!)





「あ、生一君」
「?」
 生一が寮の廊下を歩いているとロビーから呼び止められ、小首をかしげて振り返った。

「清水先輩…」

 ソファに座って手を振っている遙に会釈で答えると、遙は他の友人らしい寮生達に二言三言告げて、生一の側まで歩いてきた。

「良かったら、部屋で話さない?」
「え?でも……」
 突然の申し出に生一が戸惑っていると、遙はニッコリと人の良い笑顔で告げた。

「大丈夫。今、共一いないから」

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