ヘリオブルー
レディッシュ

10


 生一が緊張の面持ちで遙に勧められた場所に座っていると、遙が目の前のテーブルに冷蔵庫から取り出した缶コーラを2つ置いた。
「炭酸飲める?」
「あ、はい。ありがとうございます…」
 恐縮した生一が肩を縮ませながらお礼を言うと、それを見て遙はクスリと笑った。

 ここは遙と共一の暮す部屋。入寮一日目に共一に会いにここに来た時はドアの前で追い返されてしまったので、中に入るのは当然これが初めてだ。
 生一としては、共一が帰ってきた時に自分が居たら怒られないだろうかなどと気が気ではなかった。

「ふふっ、そんなに緊張しなくても大丈夫だよ?共一なら、先生に雑用頼まれてたから、しばらく帰ってこないだろうし」
 共一って、ああ見えて頼まれると断れないタイプだよね〜、と言う遙に、生一も微笑んで同感した。
「そうですよね。だから友達も多いんですけど、その分頼まれ事も増えて…。昔からいつも忙しそうにしてました」
「あははっ、昔からそんな感じだったの?」
 楽しそうに共一の事を話す遙に、生一は、遙は昔の共一の話を聞きたくて自分をここに呼んだのだろうと納得した。

(恋人同士…なんだもんね)

 チクリと感じた胸の痛みには、知らない振りをした。





「僕は人よりドンくさいから、いつもキョウに助けられてばっかりで…」
 遙は人の話を引き出すのが巧みらしく、本来話しベタな生一も、あまり気負わずに話をすることが出来た。何より、遙が望む話題は共一の話なのだ。生一は、共一の事であれば何時間でも話し続ける自信があった。
 ふと遙を見ると、なにか見透かすような視線で、しかし相変わらず優しげな笑顔のままでゆっくりと口を開いた。

「生一君て…、本当に共一のことが好きなんだねぇ」

 突然の遙の言葉に、部屋の空気が止まった気がした。
 生一は遙と視線を合わせていられず、ともすれば震えてしまいそうな頭をうつむかせた。
 しかし好きと言っても、友情・兄弟愛いろいろある。遙の様子を伺おうと、もう一度視線を上げると、生一を見つめる遙は、読めない表情で笑っていた。

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