ヘリオブルー
レディッシュ

23


「お前、昨日は久堂のところに泊まったんだって?」
「え…?う、うん……」

 共一を見ると、真直ぐな視線と目が合った。
 探るような鋭い目に見つめられ、昨夜の蘭丸との出来事が走馬灯のように過る。生一は蘭丸と一線を越えそうになった事を思い出し、その顔をみるみる赤く染めた。
 そんな生一の様子を見た共一は、ピクリと眉間にしわを寄せる。

「どこまでされた」
「え!?」
 何事かされたであろう事は、確信済みのような物言いに、生一の心臓が跳ねる。
「な、な、何……っ?」
「最後までか」
「ちっ、違うよ!!」
 生一は真っ赤になって叫んだ。
 しかしこれでは、何かしらはされたと言っている様なものである。

「…………」

 詰め寄る様に無言で見つめられ、居たたまれなさに生一は おずおずと口を開いた。
「キ…、キス…だけ……」
 正確には、上半身を中心に身体中にキスされたのだが、さすがにその辺は伏せておく。

「…………」
「…キョウ……?」
「クソッ…!」
 無言のままの共一を、恐る々々覗き込むと、突然強い力で抱き寄せられた。
 生一は一瞬、何が起こったのか分からなかった。目の前には共一の制服の胸元が見え、頬には温かい感触が触れている…。

「なに…他人に触らせてんだ」
「え……」
 小さく耳元で囁かれた声に、問い返す。
「お前は俺のものだろ。…気安く他人に触らせるな」

 え………

 共一は、生一を抱きしめる腕に力を込めた。
 勝手な事を言っているのは、わかっている。自分から突き放しておいて、今更自分のものだなんて、こんな勝手な物言いもないだろう。
 しかし、蘭丸に言われたセリフで頭が冷えた。

「誰かに許して
もらえなきゃ、
人を好きになる事も
できないの?」


 本当はずっと好きだった…。

 この世に同時に生命を灯し、そしていつも懸命に自分の後を追いかけて来る小さな存在を、誰よりも愛していた。
 それを許さなかったのは、周りよりも、むしろ自分自身で…。

「キョウ……」
 生一は、共一の腕の中で顔を上げた。
 見上げると、なぜか共一が泣き出しそうな瞳で自分を見下ろしていた。
「キョウ…、ごめんね?僕、キョウのものだよ。…もう、誰にも触らせないから……」

 だから、そんな顔しないで…―――

 生一はゆっくりと差し上げた右手で、共一の頬を流れ落ちる涙を撫でると、軽く身動ぎをして首を伸ばし、自分から優しく唇を重ねた。

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