心の棺


「どうした、二階堂。悩み事か?」
「えっ!?」
 生徒会室の窓辺でボンヤリと外を眺めていた千歳は、他の誰と聞き間違える筈もない声と共に、ポンと頭を優しく叩かれ、驚いて振り向いた。
「俺が入って来たのにも全然気が付かないで…、そんな愁い顔で一体誰の事を考えていたんだ?」
 尚也が、自分の席に着きながらクスクスと笑って言う。まさか千歳が自分への恋心に悩んでいるなどとは、欠片も思っていないようだ。

(あなたの事を考えていたんです……なんて言ったら、どんな顔するのかな…)

「ん?どうした。まだボーっとしてるのか?」
 机に着いた尚也の背中を熱い視線で見つめていると、尚也が笑顔で振り返った。
「いえ……、大丈夫です」
 ゆっくりと首を振って、尚也と自分自身をごまかすように笑顔を返した。

 叩かれた頭に、まだ甘く感触が残っている…。
 今はこれで良いじゃないか。可笑しな事を考えるのは止そう。後輩として可愛がってもらっている…、それだけでも充分幸せな事なのだから……。

(后先輩…、貴方が好きです……)
 決して言葉に出来ない思いを心の中だけで告げて、千歳は静かに自分の席に座った。







『3年C組后尚也君、至急職員室まで来て下さい。3年C組后尚也君、お兄さんから電話が入っています。至急職員室まで来て下さい』

(后先輩……?)
 3時間目の休み時間に入ってすぐに流れてきた校内放送の声に、千歳は耳を傾けた。どこか緊迫した様な教師の声…。一体何があったのだろうか。

「………」
 千歳は、意を決して席を立った。
「あれ、二階堂どっか行くの?トイレなら俺も〜♪」
「あ、ごめん。僕、職員室に用事があって…」
 声を掛けてきたクラスメイトの友人に断りを入れて、千歳は職員室までの道を急いだ。

 今、職員室に行けば確実に尚也の姿を見ることが出来る。だからどうなるという訳でもなければ、放課後になれば生徒会で会えるのだが、それでも千歳は、学年が違う為に普段あまり顔を合わせる機会がない尚也と、1秒でも多く会いたかった。

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