You are my
reason
to be


 私立華宮(かみや)高等学校。
 前理事長の孫である后尚也(きさき なおや)が現在の理事長を務める男子校。そこに隣接する寮の掲示
板で、志村慶介(しむら けいすけ)は自分に割り当てられた部屋番号と同室者の名前を確認していた。

 ここ華宮の寮では、1年生は4人部屋、2年生になると自分達の意見を反映した相手との2人部屋となり、3年生は1人部屋という制度になっている。
 慶介は1年生なので、4人部屋だった。

(知ってる名前は居ないな…)

 同室者に知り合いは居なかったが、仕方がない。同じ中学校からの入学者達は、家から通うのがほとんどだったのだ。慶介自身も、けして家から通えない距離ではなかったのだが…。



「あ…」

 慶介が掲示板で確認した部屋のドアノブに手を伸ばしたところ、横から思わず出たような呟きが聞こえた。
 声のした方向に視線を向けると、少し眠そうな表情の美しい少年がこちらを見つめている。身長は標準よりも高めだが、全体的に華奢な印象の、中性的な少年だった。
「ああ、同室…か?」
「…、ああ」
 相手の短い返事を確認し、部屋のドアを開けると、既に二人の姿があり、そのうちの一人が、慶介の隣の少年を見て顔を綻ばせた。

「おっ、西原ー」
「タカ…。同室だったんだ…」

 どうやら二人は知り合いなようだが、西原と呼ばれた少年は同室者の名前を確認せずに来たらしく、驚いた顔をしている。意外とヌケているのか、興味がないのか…。
「とりあえず まあ、ありきたりに自己紹介といきますか」
 いつもの事なのか、タカと呼ばれた少年は、さして気にしたふうもなく立ち上がった。

「俺は日高孝利(ひだか たかとし)。野巌(のいわ)中出身。よろしくっ」
 日高にうながされ、彼はやはり眠そうなまま口を開いた。
「えっ、ああ…、西原出流(にしはら いづる)。同じく野巌中」
「俺は伊藤正(いとう まさし)。横川(よこかわ)中」
 既に日高と共に部屋にいたもう一人が自己紹介を終えた所で、最後に慶介も軽く頭を下げて名乗った。
「志村慶介。砂原(すなはら)中だ」
 それを聞いた日高が、首をかしげる。
「え?砂原中?砂原中って、すぐそこじゃん。何でわざわざ寮に入ったんだ?家遠いの?」
「うーん、まあ、寮の方が気楽だからな」
「ふーん、そんなもん?」

 不思議そうに尋ねてくる日高に、曖昧に答える慶介の様子を、出流が静かに見つめていた。

(俺と同類か…)

 家に居たくない…。それは出流にも良く分かる感情だった。



この時は

ごく普通の出会いだと
思っていた。



ごく普通に出会って、
ごく普通に別れていく
ものだと…


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