You are my
reason to
be… 2

10


「はいはい、出流ちゃん?おはよう」
『椎名……っ』
「……どうした?」

 日曜日、朝一番に出流(いづる)から電話がかかって来たかと思えば、どこか安心したようでいて、切羽つまった声…。事情を聞けば、慶介が昨日から、後輩の七瀬と出掛けたまま帰っていないと言うではないか。

「わかった。ちょっと色々当たってみるから、出流ちゃんはそのまま部屋で待ってて。…大丈夫だから、泣かないで」
『ん……。ありが…とう』

(まったく…、何やってんだよ慶介)
 慶介に限って、よもや浮気などという事はないだろうが…。

(あんな可愛いコ、泣かすなっつの)
 椎名は溜め息をつくと、七瀬に繋がっていそうな後輩に電話をかけた。







コンコン

 椎名の声を聞いた安心感と、不安感に苛まれながら夜を明かした疲れから、ボンヤリと床に座っていた出流は、突然のノックの音にビクリと肩を揺らした。

「出流ちゃん、俺。椎名だけど」
「椎名っ……」
 出流は、慌てて立ち上がると、ドアを開けた。

「出流ちゃん……、こんなに泣いて……」
 出流の目は真っ赤に腫れて、どれだけ不安な夜を過ごしたかは一目瞭然だった。出流の悲しみを感じた椎名は、自分の目にも涙が溜まるのを、出流を抱きしめることで隠した。

「慶介は…、もうすぐ帰って来るよ」
「っ……!……ほんとに?」
「ああ……」

 椎名は、七瀬に電話で確認してくれた後輩の話を、出流に説明した。途中で具合が悪くなった七瀬を送って行き、家族が帰って来ないことを知って、そのままご飯を作って看病していた事…。つい先程、七瀬の家を出た事…。

「連絡ぐらい…っ、くれればいいのに!俺がどれだけ心配したと…思って……、俺の事なんだと思って……っ」
 自分の腕の中で泣き出した出流を、椎名は優しく抱きしめて、あやすように背中をさすった。
 平均よりも背が高い出流だが、更に10cmも高い椎名の腕には、すっぽりと包まれてしまう。

 その時、ガチャリと、背後で扉が開く音がした。

「慶介……」
 椎名が、後ろを振り返って確認すると、慶介が目を丸くして自分と出流の抱擁を見ていた。
 そして、顔を上げた出流の様子を見て息を呑む。
 泣き腫らした瞳に、眠っていないのか顔色も悪い。

「出流……、まさか、ずっと起きて……」

パンッ!

「………っ」
 慶介の頬を打った出流は、下を向いたまま声もなく泣いていた。

(出流ちゃん……)

 椎名も慶介も、何も言葉を発することが出来ず、その空気に耐え切れなくなったように、出流は部屋を飛び出した。



 出流の後を追う事も出来ず、打ちひしがれたように立ち尽くす慶介に、椎名はフゥ、と溜息をつく。

「俺は、慶介の事それなりに分かってるつもりだけどさ」
 そこで言葉を区切ると、慶介は弱々しく視線を上げた。

「今回の事は、かなり問題のある行動だと思うよ」
「……うん」

 皆まで言わずとも、慶介なら分かっているだろう。慶介は、他人の寂しさにとても敏感な男だ。……今回のようにそれが仇となって、行き過ぎた面倒を見てしまう事もあるのだろうが……。

 傷ついた出流を見て、慶介もまた同じように傷ついているのだ。

 椎名は、うなだれる慶介の頭を片手で抱き寄せ、額にキスを落とした。

  小説 TOP