You are my
reason to be… 2
12
「「おはよう」」
「うっ……。おはようございます…」
結局、昼過ぎまで爆睡してしまった……。
「では、昼食にしようか。私が作るから、二人で話していなさい」
「はい。お願いします」
「あ、スイマセン…っ」
勧められ、有栖の斜め左のソファに腰掛けると、ふふっと笑われる。
「?」
「今朝よりずっとスッキリした顔になったね。…落ち着いた?」
「…はい。やっぱり人間、寝ないと駄目ですね……」
出流(いづる)は、頭をかきながら笑って答えた。
今思い返すと、寝不足が随分とイライラに拍車をかけていた事がわかる。
(殴っちゃったし……)
やっぱり、慶介とちゃんと話さなきゃ……。
后(きさき)お手製の昼食をご馳走になり(意外にも、ナスの揚げ浸しや、里芋と豚肉と豆腐の炒め物、もずくの味噌汁などの和食だった!)寮の前まで、有栖に車で送ってもらうと、遠くから椎名が歩いて来るのが見えた。
「椎名!」
「!! 出流ちゃん!今までどこに…っ」
もしかして、ずっと探されていたのだろうか……?
「ご、ごめん、椎名……」
目の前まで走って来た椎名に頭を下げると、車の窓を開け、有栖が顔を出した。
「ごめんね、椎名君。マンションの前に居たのを、后さんが拾って来ちゃって……」
(そんな、犬や猫みたいに……;)
「はぁ…、良かった……。先生、どうもお世話になりました」
礼儀正しく有栖に向き直り、頭を下げた椎名に、有栖が「フ…!」とふき出し、ハンドルにつっ伏した。
「椎名君……、西原君の保護者みたい……っ」
「「 ////; 」」
ツボにハマったようにぷるぷると震える有栖の肩を眺めて、二人は顔を見合わせ赤面した。
「………」
寮の部屋に戻り、「本当にごめんっ!」と言って、じっと頭を下げ続けている慶介のつむじを、出流は黙って見つめていた。
そっと手を伸ばして髪に触れると、ピクリと慶介の体が震えた。
なんだか、随分長い間触れていなかったような錯覚がする。
「俺も…、殴ってごめん」
言いながら、顎を掴んで慶介の顔を上げさせる。
「本当は俺…、今回の事だけで怒ってたんじゃないんだ……。ずっと…、最初に七瀬に会った時から、嫌だった。……嫉妬してた」
「出流……、ごめん」
「こんなの嫌だろ?めんどくさいよな……」
自嘲気味に首を振る出流を、慶介は思わず抱きしめていた。
「俺も……、そういうのあるから…」
「嘘だ……」
慶介は無言で首を左右に振ると、遠慮がちに続けた。
「七瀬に会った後、俺が知らない一年生の頭撫ぜてただろ…?それに、今朝だって、伊澄に抱きしめられてるし……」
知らない一年生とは、卓翔の事だろうか?出流にとっては何の気なしの行動だったが、それを慶介が気にしていたとは、驚きだった。
「俺は、いつでも不安だよ……」
慶介が、寂しそうに笑って言った。
慶介も……?
「なんだ……、慶介も俺と同じなんだ」
出流は、一気に気がぬけてしまい、はぁー―と長い溜め息をついて天井を見上げた。
「出流も…?」
驚いたように見つめてくる慶介の頭に、軽くチョップをくらわせる。
「そうだよっ!慶介は鈍いから、余計心配なんだぞっ」
「あ……」
そういえば、七瀬に好きだと告白された事を思い出す。もちろん、自分には他に好きな人がいるから、と断ったのだが。
「なんだ、何か思い当たる事でもあったのか……?」
明らかに動揺した様子を見せた慶介に、出流がジト目で詰め寄る。
「いや…、実は、七瀬に告白されて…、七瀬の気持ちに気付いてなかった事を驚かれ…て……」
「ふぅ〜〜ん」
キスされた事は、黙っていた方が良いだろう……。
「も・ち・ろ・ん、断ったんだよな?」
「もっ、もちろん」
なら良いけど、と短く溜め息をつくと、出流は呆れ顔で呟いた。
「てゆーか、ホントに気付いてなかったんだな……」
「う……、ごめん」
恐縮する慶介の首に腕を回すと、鼻先が触れ合うほどの距離で視線を合わせた。
「慶介、……好きだ」
「……俺も、好きだよ。……一番傷つけたくないと思ってたのに、…傷つけてごめん……」
口下手な慶介の精一杯の言葉に、胸が熱くなる。
「今夜は、覚悟しろよ」
「……え?」
「しっっっかりと俺の身体に、お前を刻み付けてもらうからな」
「なっ……、い、出流っ…、何言って……」
真っ赤になってあたふたと慌てる慶介を、出流が「カワイイ奴」などと思っている事は内緒だ。
今夜も、長い夜になりそうだった……。