You are my
reason to
be… 2

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「先輩……、ちょっとお話、いいですか?」
「秋本……?」

 放課後の教室で、部活に向かうために支度をしていると、廊下から後輩の秋本が慶介を呼んだ。秋本はバレー部の後輩で、七瀬とは一番仲が良い。たぶん、話とは七瀬の事だろう。
 どうしようかと一瞬逡巡するが、断る理由にも思い至らず、こちらを見ている出流(いづる)に軽く目配せをして教室を出た。







「い……、出流ちゃん?…何で後つけてんの?;」
「だ…、だって、慶介が『ついて来い』って感じで目配せしたから…」
 いや、慶介の目配せの意味は、『ついて来い』ではなく『行って来る』だったのだが……。

(だからって、何で俺まで?;)

 部活へ向かうべく、廊下を歩いていた所を出流に捕まった椎名は、困惑しつつも、手のかかる弟に従うように、目の前の二人の影を追った。

(というか、あんまり出流ちゃんにとって楽しい事には、ならないと思うんだけどなぁ……)

 椎名の予想通り、たどり着いた空き教室には、うつむく七瀬の姿があった。

「七瀬……」
「先輩、土曜日は…、済みませんでした」
 震える声で謝罪した七瀬は、慶介に深々と頭を下げた。
「いや、それは…気にしなくていい」
「でも僕っ……!」

 突然勢いよく顔を上げた七瀬は、必死に慶介に訴えた。
「先輩の事、諦めません!絶対、先輩を思う気持ちは誰にも負けない!」

 ……なんだと?

「先輩っ……」
 そして七瀬は、慶介の首にしがみ付くようにキスをした。

(ああ〜ぁ)
 出流と一緒に、ドアの隙間から中を覗いていた椎名は、頭を抱えた。
 とっさの事に弱い慶介は動く事が出来ず、出流にはそれが、好きなようにさせている様に見えて怒り心頭だ。

「あっ、いづ……」

バアンッ!

 椎名が止めようとするのも間に合わず、出流は、空き教室の引き戸を叩き付けるように開けた。

「出流!?」
「慶介の浮気者!!昨日あれだけ俺を抱いておいて、何やってんだ!!」

「「「「えっ!?」」」」

「結局、俺の身体だけが目当てだったんだな!慶介のバカッ!!
エロ!!

 そう吐き捨てると、出流は教室を駆け出した。
 残された4人(秋本と椎名は、完全なとばっちりだ)は、あまりの衝撃に、誰一人として言葉を発する事はできなかった……。

  ・

  ・

  ・

「そうかぁ……」
 しばらくの沈黙の後、耐えかねたように椎名が口を開いた。

「慶介もとうとう、大人の階段をのぼっちゃったんだな…」
「伊澄……///」

「お赤飯たこうか?」
「…やめてくれ……;」
 慶介は、両膝に手をつき、力いっぱいうなだれた……。

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