そうだ……



いつも寂しかった



…不安だった







毎日電話することを持ちかけたのも



実は俺の方からで…






            かこつ
素直に寂しがるクレアに託けて



本当は俺の屈折した不安を解消させていた―――









離れる事が不安だったのは          



                むしろ俺の方だった









彼女が手の届かない所に行ってしまう事を



いつも心のどこかで恐れていた…―――









怖かった…









手にした温もりを失う事を



ひどく恐れていた










「ふう……」

 尚也はベッドに腰掛けると、枕元の大き目のクッションに背中を預けた。

 今日の午前中は、病院で検査を受けてきた。動悸と心臓の違和感が心配だったが、検査

の結果異常はなく、やはり強いストレスを受けた事が原因であろうという見解だった。



 ただ、心電図の波形が他人より変わっている…という事がわかり、少々驚いてしまった

が……。医者の話では、一人一人の顔かたちが違うように心電図にも個人差があり、病気

でもなければどこかが悪いという訳でもないので気にしなくて良い…という事だったが、最初
                                                    
に尚也の心電図を受け取った医者が「出るはずのない波形が出ているので、もう一度撮

り直してくるように」と看護士に命じているのをハッキリと聞いてしまった尚也としては、(顔で
たと 
例えると、目が三つあるとか、鼻と口の位置が逆だとかいうんじゃないだろうな……;)と思

わずにはいられなかった。

 目が三つあれば明らかにおかしいが、かといって生活に支障があるわけではない。



(なんなんだ、まったく……;)

 なんだか疲れてしまった。



 日常生活の注意点としては寝不足と空腹、それからカフェインは発作を誘発する作用が

あるので厳禁との事だ。尚也は朝と毎食後にコーヒーをブラックで飲むのが習慣だった。特

に朝起き抜けに濃い目に淹れたコーヒーは頭が冴える気がして好きだったのだが、発作の
    おか
危険を冒してまで飲みたいとは思わない。



(…もう、一生コーヒーは飲めないのかも知れないな……)



 「たとえ完治しなくても気にしない方が良い」…要は、一生完治しない可能性をつきつけら

れた。





 クッションに背中を預けたまま、もう一度大きく息をつき、天井を見上げた。体に異常が

無い事はわかったが、何もする気分にはなれなかった。



 自分がこんなに弱いとは思わなかった。



 何があっても、自分なら一人でも乗り切れると思っていた。







 今の情けない自分をクレアが見たら、…一体どう思うのだろう―――




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心の棺

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