尚也達が惣一郎の家に来て、二週間。兄の和也はここで有給を使い果たし、すでに家に とど 戻っていたが、尚也はまだ帰る気分になれず留まっていた。 「尚也、起きとるか?」 ノックと共に聞こえた惣一郎の声に、尚也はベッドから起き上がり返事を返した。 「うん。おはよう、おじいちゃん」 言いながら部屋のドアを開けると、笑顔の惣一郎が水の入ったコップを持ち、立っていた。 し た 「一階にワシの学校の生徒が来とるんだ。一緒に来ないか?」 コップを差し出され、薬を飲めという事だと悟る。 初め尚也は、精神的な事などで自分の体がここまでおかしくなるというのが信じられず、医 者の誤診を疑って試しながら薬を飲んでいたのだが…、結局薬はよく効いている≠ニいう 事実を証明しただけだった。 できるだけ薬は飲みたくない…。この手の薬は依存性もあり、副作用も強い…。尚也は薬 を飲み始めてから副作用で筋肉が落ち、二週間で2kgも体重が落ちていた。ここに来てから トレーニングもサボりがちとはいえ、ここまでの減少は薬の副作用としか考えられない。 しかし、客前に出るのであれば、やはり飲まない訳にはいかないだろう。 きびす 尚也は惣一郎からコップを受け取ると、部屋へと踵を返した。 「頭…、ボサボサだけど」 薬を飲んで部屋を出てきた尚也がつぶやくと、尚也の髪を手ぐしで整えながら惣一郎が笑 った。 さすが 「構わんよ、充分いい男だ。流石はワシの孫だな!」 楽しそうな惣一郎の様子に、尚也もつられて笑顔をこぼした。 かみや あづちまこと 「あ、初めまして。華宮高校一年の安土誠です」 きさき 「…初めまして。后…尚也です」 惣一郎と共に一階の居間に入ると、一人の少年が大量の荷物を持って立っていた。高校 一年と言うからには尚也よりもひとつ年上なのだが、この安土誠という少年は年齢よりも ずいぶん 随分幼く感じられた。 しかし、この大量の荷物は一体何なのか…。見たところ本や、ビデオテープのようだ が……。 「尚也の気晴らしになれば良いと思ってな、色々面白そうなのを買ってきてもらったんだ」 「俺の………」 漫画、コメディ映画、…アニメ……ディ○ニー…?; 「ご…ごめんなさい、おじいちゃん……。お孫さんの為にって聞いて、僕…てっきり小学生くら いを想像してて…;こんなに大きい人じゃ趣味に合わないよね…、どうしよう…;;」 「おじいちゃん」…?; 「あっ、ごめんなさい!えっと…理事長先生、僕らの間では『おじいちゃん』とか『じいちゃん センセ』って呼ばれてるんですっ」 いぶか 訝しげに眉根を寄せた尚也に、安土は慌てて説明した。…わたわたと身振りを加えて話す 姿は、とても年上には見えない……。 「良いんだ、良いんだ。こう見えても尚也はまだ中学生で、誠よりも年下だぞ。尚也も、 たまにはこういう物も見てみなさい、きっと楽しいぞ」 「うん…。こういうのは見たこと無いな……」 なが 尚也は、ひとつひとつ手に持って眺めた。漫画などは友人の家で背表紙だけ見た覚えの ある物もあるが、実際に読んだ事がある物は一つもなかった。 「え、ほんとに?これなんか面白いよ。あと…これ!僕も小さい時に見てハマッたんだ〜」 「へぇ……。絵が可愛い…」 クスリと笑った尚也に、安土も「でしょ〜?」と瞳を輝かせて笑った。 (流石は尚也……。ムムゥ…) まるで男女共通のフェロモンでも発しているような力で、早くも安土の心を掴みつつある我 が孫の様子に、惣一郎は苦笑いを浮かべた。 |
心の棺
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