ヘリオブルーレディッシュ

12





「キョ………」

「あー、帰って来ちゃった」

 恋人にこんな場面を目撃されていながら、緊張感のない声であっけらかんと呟いた遙に、

生一は信じられない思いだった。一方の共一は、怒りと驚きが入り混じった表情でこちらを

にらみ付けているというのに…。



 共一は平静を取り戻そうとするようにゆっくりと靴を脱ぎ、大股で二人のもとに歩み寄った。

「いっ…ぅ…!」

 無言で生一の片腕をつかみ、遙の下から引きずり出すと、腕の力に痛みを訴える生一を無視

して開け放たれたままのドアの外まで引っ張り出す。

「あっ…!」

 ようやく腕を開放された生一はよろけてその場に崩れ落ちるが、共一はそんな生一を見下ろ

し、冷たい声で言い放った。



二度と遙に近付くな



 !!―――



 目の前でバンッと乱暴に閉められた扉に、絶望が広がる。

「キョ…ウ……」

 生一の頬を伝ってぽたぽたとこぼれた涙が、床に水滴を散らしていった。

「ごめんなさい…、ごめんなさい…キョウ……っ」





 嫌いにならないで…っ…。





 蘭丸のおかげでほんの少しだけ縮まったように思えた共一との距離が、今急速に離れていく

のを感じていた。

 生一は、そんな予感を振り切るように首を振ると、震える足を叱咤して立ち上がり、うまく働か

ない頭のままふらふらとその場を後にした。





 どうして…。

 どうして、こんな事になったんだっけ…?


                         おぼつか
 次々と溢れ出る涙を両手で拭いながら、覚束ない足取りで歩いている生一に、何人かの寮生

が心配して声をかけたが、生一はただ無言で首を横に振るだけで、問いかけに上手く答える

余裕はなかった。









 どうして……?




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