かみや 華宮高校では、毎年9月に1年生のみ課外授業≠ニ称した遠足がある。 おおむ そ 高校生にもなって遠足≠ニいうのは概ね不評だったが、行ってみれば其れなりに皆 楽しんでいるということで、毎年欠かさず行われていた。 (バスの席順が自由なのが救いだな) いづる 出流は隣の席の慶介を見やった。 バスの揺れが心地良いのか、慶介は先程からうつろな視線でフラフラと頭を揺らしている のだ。 (乗物に乗ると眠くなるとかって、子供みたい) こういう姿を見られるのは同じクラスの特権だな、と思わず笑みがこぼれる。 後で椎名に報告しよう、と一人ニヤニヤしていると、慶介とは反対側の隣の席から視線を 感じた。 「楽しそうだね、西原君」 (何で理事長が課外授業について来るんだよ…) きさき うさん 出流の、通路を挟んだ隣の席では、理事長の后が聖職者というよりはホストのような胡散 臭い笑顔を浮かべていた。 この1年A組が乗るバスには、担任・副担任の他になぜか理事長が同乗しているのだ。 「生徒がそんなに楽しんでくれてると、先代も喜ぶよ」 后が柔らかく笑った。 そういえば、后は先代理事長の外孫…、つまり先代は后にとって母方の祖父であると聞 いたのを思い出す。いつもの含みのあるような笑顔とは違う先程の笑みに、本当に先代の 事が好きなのだと感じられる。 后は次男だという事だったので、后コンツェルンの会長は、いずれ現会長の祖父から父 親を経て、兄が継ぐのだろうが、様々な分野で成功を収めており、海外にも支社を持つ 企業なだけに、重要なポストはまだ沢山あるのだ。 それがなぜ、母方祖父の後を引き継いで理事長なのか…。そこにはやはり、先代理事長 との絆があるのだろうか。 (なんとなく、男好きだから=cってゆう理由も、あり得なくもなさそうなんだけど…;) 「なんかさぁ〜…」 バスを降りて合流した椎名が、ぼんやりと空中を見ながら呟いた。 「ん?」 「俺は別に、遠足自体には異論はないんだよ。たまにはこういう行事もあった方が、学校 生活にメリハリが出て勉強にも身が入る…って事だろうからね」 「うん。俺もそれはあると思う」 「ただ、高校生の遠足で、動物園ってどうなの?」 そうなのだ。今年の遠足場所は誰が決めたのか、動物園なのだ。 今日は平日のため入園者はまばらだが、その誰もが家族連れやカップルばかりだった。 「いいじゃん、なんか慶介嬉しそうだしっ」 出流が、少し頬を赤らめて椎名を見上げた。 動物好きな慶介は、子供のように目を輝かせて、今も目の前の狼に夢中だ。柵に取り 付けられた説明文を読むよりも、ひたすら動物を見つめているあたりが、なんとも慶介らし かった。 「それもそうか」 その微笑ましい光景に、椎名もクスリと苦笑をもらした。 「狼、カッコイイな」 出流は慶介の横に並んだ。 「うん。…撫ぜてみたい」 出流も動物は嫌いではないが、狼のような身体の大きい肉食獣に触りたいとまでは思わ ない。 慶介は、学校内に頻繁に現れる白い猫(シロと呼ばれている)とも仲良しで、シロに構って いる時の慶介は、シロが可愛くてたまらないという表情で、いとおしそうに毛並みを撫ぜる のだ。 そんな慶介だからこそ、直接その手触りを確かめてみたいという衝動に駆られるのだろ う。 (ムツゴロウさん…?)
「はい、これが慶介ので、こっちが出流ちゃんの」 |
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