「西原君は分かりやすいね」
 いづる
 出流がトイレの洗面台で手を洗っていると、突然背後から声が掛かった。

「りっ…じちょう」

「志村君が好きなんだね?」

「!!?」

「西原君は分かりやす過ぎる」

「〜〜〜〜〜;」

 本来、出流はどちらかというと「わかりずらい」と言われるタイプの人間だったが、こと、

恋愛に関しては慶介が初恋であった為、何も言い返すことができない。



「良い趣味をしているよ。私から見ても志村君は純粋な良い子だ」

「て…手、出さないで下さいよ…」

 思わず警戒してしまう。


     まぶ
「私には眩し過ぎるよ…」









 出流がトイレから出ると、椎名が小走りに寄ってきて、

「今、理事長入っていっただろ。なんかされなかった?」

 と、冗談交じりに聞いてきた。

「とりあえず慶介に手を出すつもりはない事はわかった」

「?」


       きさき
 出流には、后の最後の言葉がひっかかっていた。



「志村君が好きで、あの純粋さを守りたいなら、照れたり遠慮したりしている場合じゃない

よ。守りたいものがあるなら、どんな手を使ってでも守りなさい。手出しできなくなってから

じゃ遅い…」



 后には、守りたかった人を守れなくなった経験があるのだろうか…。

 その経験が、今の后の恋愛観に影響を与えているのだとすると、とても悲しい事のように

思えた。

 ふと視線を左に向けると、椎名のクラスである1年C組副担任として同行している二階堂

が、一人ベンチに座っているのが目に入る。后を待っているのだろうか。

 その姿を見ているだけで、今では何だか切ない思いに囚われる。

 きっと二階堂は全て知っているのだろう。だからこそ、情夫などというよく分からない立場

に置かれながらも、后を必死で守ろうとしているのだ。



「椎名。俺、椎名の事も好きだし、とても敵わないと思う所も多いけど、慶介の事では遠慮

しないからな」

 后が、自分の傷跡を垣間見せてまで説いてくれた教えを、素直に聞き入れてみようと思っ

た。優しい笑顔も、寂しげな瞳も、慶介の全てを守りたいという気持ちは、椎名にも負けて

いない自信があった。



 突然の出流からの宣言に、一瞬驚いた表情を見せた椎名だったが、

「もちろん。遠慮なんてされたら困っちゃうよ」

 と、優しく微笑まれてしまった。



(こういう所が、ホントに敵わないんだよな…;)





























「あれ?タカ、今週実家帰るの?」

 ゴソゴソと荷物をまとめていた日高に、出流が声を掛けた。

「うん。あ、なんか伊藤も法事があるとかで帰るんだって」

「ふぅん…」









「お休み、慶介」

「ああ、お休み」

 2人きりの週末、お休みを言い合って布団に入る。

(こういうのも夏休み以来だな)



    守りたいものがあるなら、どんな手を使ってでも守りなさい




 ふと、后の言葉が甦った。

(だからって、いくらなんでも寝込みを襲うわけにはいかないよな;)



 それでは犯罪者である。



 出流にはキチンとした常識があるという認識のもとだからこそ、あのような言い方をしたの

であって、いくら后でも本当に何をしても良いと思っている訳ではないだろう。何より相手を

守る℃魔ェ大前提であって、自分が傷つけてしまっては本末転倒なのだ。



(あぁ〜〜もうっ、何考えてんだよバカじゃないのか俺!!)



 その夜、出流は布団の中で一人、赤面しながら眠りについた。




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