いづる 2人きりの日曜日、特にする事の無い出流は、自分のベッドの上で壁にもたれてボンヤリ していた。慶介は、これまたボンヤリと窓辺に立って外を眺めている。シロを待っているの だろうか。 どちらも無口な方であるため、会話が弾む事はめったにないのだが、2人の間には、お互 いに沈黙が苦にならない相手という安心感があった。 ふと、思いついたように慶介が振り向いた。 「出流…、暇なら栗拾いに行かないか?」 「へ?栗拾い?」 ちち 「昔…、一度義父に連れて行ってもらった所があるんだ」 寮を出て20分程歩くと、山の裾野から一面の林が広がっていた。 「疲れてないか?」 「ん、このくらいは平気」 自分を気遣ってくれる慶介の優しさに、思わず足取りも軽くなる。 (ああもう慶介、そんなに俺を惚れさせてどうするつもりだっ?) などと出流が考えているとは、慶介には知る由も無い。 木造の小屋のような建物に辿り着くと、慶介はきょろきょろと辺りを見渡し、何かを探して いるようだった。どうやらここで栗拾いが出来るらしく、広大な栗林と、キノコを栽培している らしい木材が置かれてあった。 やがて小屋の中から作業着を着た男性が出てくると、慶介は 「済みません」 と声を掛けた。 「はい」 「あの…、ここに居た犬は…」 (犬を探してたのか…) じゃあ、慶介の事だから目的は栗よりもむしろ犬の方だな、とこっそり苦笑する。 しかし、それを聞いた作業着の男は、困ったように少し笑った。 「ああ…、ハナなら去年死んだよ」 「そう…ですか。去年…」 「慶介…?」 「あ?ああ。…犬が…居たんだよ」 「お兄ちゃん、犬がいるよっ」 ワン!ワウッ ガウッ! 「何だ、凶暴な犬だなぁ」 「恐いわねぇ。智穂っ慶介、いらっしゃい」 ワンッガウ! 「はぁ〜い」 違う……。怯えてるだけなんだ。
なあ、どうしたら分かってくれる?
ワウ…
クゥ…ン 分かって…くれた?
まるで気持ちが通じたように尻尾を振り、甘えてきてくれた事が嬉しくて、ずっとずっと撫ぜ続けた。 外につながれていたせいで、ホコリと油で手が黒くなってベタついたけど そんな事もどうでもよかった。 「…帰ろっか?」 「……うん…」 |
13