いづる ふけ
帰り道、出流は物思いに耽る慶介を邪魔しないように、少し後ろを歩いた。
手を伸ばせば届く距離、視界には入らない位置。今慶介は、自分の感情を一人で処理
しているのだ。邪魔をしてはいけない。
(慶介……)
風の息づかいに乗せて、慶介の心が伝わってくるような気がした。
寂しくて
切なくて…
でも、なぜだかそれが、出流には少し温かく感じた。
それは
俺の中にも眠っていた感情だからだろうか…
「あ…。悪い、栗拾うの忘れてたな…」
「え?ああ、いいよ別に」
かぶり
やっと出流の存在を思い出したように振り返った慶介に、苦笑して頭を振る。
尚も「悪い」と謝る慶介に「いいって」と返しながら、歩調を合わせて隣に並んだ。
ふと、視線を前に向けた慶介が、弾かれた様に顔を上げた。
「?」
出流が慶介の視線を追ってみると、前方50m程の位置に犬を連れた中年の男性が横切
って行くのが見える。白地に黒の特徴的な模様は、たぶんボーダーコリーだろうか。
こちらに気がつき顔を上げてきた犬に、慶介が首を傾げて微笑み掛けた。
と、その犬はその場に座り込み、じっとこちらを見つめてきたではないか。まるで2人が
来るのを待っているようである。
「うあっ、メチャメチャ見てるっ」
(慶介…だよな、やっぱ;)
前方では、突然座り込んでしまった犬に、飼い主の男性が歩くように必死で促している
が、犬の方はこちらを見つめたまま、尻尾まで振ってしまっている。
プッ
「アッハッハッ慶介といるとホント飽きないなぁ〜」
出流はとうとう、お腹を抱えて笑い出してしまった。
「そ…、そうか?;」
「ウンッ。楽しいよ」
ふっ…
ああ…
この顔
この表情だ
かお
この表情を
見るのがすごく
…好きだ
首を傾げる角度が好きだ
柔らかくなる目元が好きだ
好きだ ―――
かみや
あと少しで華宮の寮が見えてくるくらいの所で、前から長い髪の少女が歩いて来るのが
見えた。155cmくらいのスラリとした体形で、遠目にもとても可愛らしい顔立ちをしている
のがわかる。
「あ…」
慶介が声をもらした。
「志村君っ」
サラサラのロングヘアーを可憐に揺らしながら駆け寄って来た少女は、近くで見ても
やはり可愛かった。
あがわ
「久しぶり、阿川」
「久しぶり。…ん〜、もしかして、隣にいるのが出流君?」
いすみ
「え?…ああ、伊澄に?」
「うん。もう、最近は出流ちゃんの話ばっっかり。かわいい、かわいいって。彼女の前でよく
言うわよね。実際見るとホントに可愛いけど」
「え?」
「あ、これ中学の同級生で、伊澄の彼女」
り さ こ
「阿川理沙子です。よろしくね」
「よろ…しく。西原出流です」
はあああああっ!?
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