「うあ、また慶介に負けた…」
 いづる
「出流は教科によって差が激しいからな」

「二人ともレベル高すぎ…」

 出流と慶介は、職員室前の廊下に貼り出された期末テストの結果を見に来ていた。

 1番の慶介と2番につけた出流の会話に、隣で聞いていた日高は「俺なんか…」と肩を

おとす。

「気を落とすな日高、お前は性格が良い。大丈夫だ」

「何その慰め!?」

「はははは」



「なーにこんな所で盛り上がってるの?」

「あ、椎名」

「どれどれ、上位二人は相変わらずだな。俺は…っと、7番!微妙!」

(7番で微妙とか言ってる…)

 下から数えた方が早い日高には、もう言葉もなかった…。椎名は「ラッキーセブンだから

良いか?」などとワケの分からない事を言って いるが、日高は(ラッキーセブンもなにも、

その順位が羨ましいよ…)と、遠くを見る目で順位表を見つめるのであった…。









「西原っ」

 出流が一人で廊下を歩いていると、後ろから声が掛かった。数学教師の片桐だ。片桐は

30代前半の男性教師で、授業内容も分かり易く、性格も温厚なため生徒からもそこそこ

人気のある教員だった。



「テストはどうだった?」

「ああ、駄目。2番だった」

「ははは、2番で『駄目』か。トップはまた志村だったな」

「まぁネ。俺、教科によってムラがあるからさ」

「数学はほぼパーフェクトだったもんな」

 そうなのだ。数学では出流は、1問2点の問題を1つ間違えただけで、慶介に10点もの

差をつけてトップだったのだが…。

(慶介ってあれだけボーっとしてて、オールマイティに勉強はできるんだからなぁ…)



「ところで…、西原は格闘技とか観たりするか?」

「え?うん。まぁそれなりに観る…けど?」

「実は今日、近くで格闘技イベントがあるんだけど、一緒に行くはずだった友達が行けなく

なったんだ。数学トップのご褒美…というのも何だけど…、一緒に観に行くか?」

「え?ホントに?じゃあ行く」

「他の奴には内緒だぞ」

 チケット2枚しかないんだから、と片桐は笑顔で去って行った。



(なんか取って付けたような理由だったけど、片桐先生『結婚間近かっ』って彼女もいる

らしいし、別に大丈夫だよな)





  ………

  慶介にだけでも

  言っておこうかな



(って、慶介にだけ言っておく理由をなんて言うんだよっ。

 自意識過剰だと思われちゃうだろっ;)

 そもそも、言っておいたからってどうなるもんでもないよな、と思い至り、結局黙っておく

ことにした。





















「どうだった、西原?面白かったか?」

 イベントが終わると、もう完全に日が暮れていた。会場の雰囲気に圧倒された出流は、

帰りの車の中でもまだ半ば放心状態だった。

「かっこ良かったよ…」

 はぁ、と溜め息混じりに返事を返す。

(俺もあの人たちの半分でも強かったら、慶介を守ってやれるのかなぁ…。…なんて)



 と、車が静かに止まった。異変に気づいた出流が外を見回すが、住宅街というよりは林道

に近いこの道は、信号もなければ寄るような店もない人気のない路地で、止まるような用事

があるとは思えない。



「西原…

 キスしていいか?」




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