「西原…

 キスしていいか?」



はっ!?



「っな何言ってんの、駄目に決まってんじゃない。

 先生彼女いるの知ってんだよっ」

「えっ?何で知ってるんだ、誰から聞いた?」

 知られているとは思っていなかったらしく、片桐は目を見開いて本気で驚いている。しかし

誰から聞いたかは問題ではないような気がするが…。出流としても誰から聞いた話だった

かなど覚えていない。そんな事を覚えているほど、片桐に対して興味はないのだ。

「誰って…皆知ってるよ」

「………」



(何考えてんだよ先生、気でも触れたか?)



「やっぱり、好きな女は大切にしないと駄目だよね」

 この流れを止めるように、トドメとばかりにハッキリと釘を刺す。

 …が、

「………好きなのは…」

(え?;)



「好きな人はここにも一人いるんだ…」

 何を思ったか片桐は、それが出流であると示すように、運転席から助手席の出流を抱き

しめてきた。

(セっ、セリフの選択誤ったか!?俺!)

「………女の子みたいな匂いがする…。良い匂いだな」

(ひぃ〜〜〜)





いや、大丈夫だ



   落ち着け、大丈夫





   切り抜けられるはずだ、俺なら。





   いつだって、どんな時でも



   突破口は自分で見つけてきたはずだ。





   考えるんだ



   どう動くべきか、冷静に…






「やっぱり細いな…」

(悪かったね、貧弱で)

  特にこれといった運動をしていない出流にとって、細いというのは決して褒め言葉では

ない。



 自身の腕から出流を開放した片桐は、出流がホッとするのも束の間、今度はうっとりと

見つめてきた。

「西原…綺麗だ…」

「ハハ……」

「ああ……、笑顔がすごく綺麗だな」

「………」



  バカじゃないのか?



「好きだ」



  テキトーな言葉並べやがって



「西原…」

 片桐は出流の顎を右手で固定すると、強引に顔を近づけてきた。



(嫌だっ!)

「突然言われても俺…」

  ヘタに抵抗して、支配欲を刺激するのはマズイ



「彼女に悪いし」

  適当にかわしながら



「少し時間くれない?」

  次≠ェあると思わせる事が得策





「わ…悪かった。そうだな、ごめん。突然すぎるよな…」

 我に帰った片桐は、出流から手を引くと、あせったように車を走らせた。

 どうでもいいけど事故らないでくれよ、と思いつつも、事を荒立てずに上手くかわせた事に

胸を撫で下ろす。



  あとは関係ない話を振るに限る



「先生ゲームとかやらないの?俺今、某ギャルゲーやってるけど」

 何を隠そう、出流は現在、日高が持って来た有名恋愛シュミレーションゲーム『どきまぎ

メモリアル』を借りてやっているのだった。とはいえ、ほとんど『ギャルゲー』というよりも

『ギャグゲー』あつかいで、日高には「このゲームはそんなに爆笑しながらやるゲームじゃ

ない!」と怒られているのだが…。



「ギャ…、ギャルゲー?

 意外とエッチなんだな…」

「エッチって…。俺がやってんのは、そんなヤラシイのじゃないよ」

(あんたと一緒にすんな;)

 身の程の知れる発言に、チッと心の中で舌打ちする。ハッキリ言ってもう、一秒たりとも

この男と二人きりでは居たくなかった。


 かみや
 華宮の寮が近づいてきた時、寮生がよく利用するコンビニに慶介の姿を見たような気が

した。

「先生とめて!!」

 キキッとタイヤの擦れる音を立てて車が急停止する。後ろに車がいなくて良かった。

「どっ、どうしたんだ」

「えっあ、ちょっと買うもの思い出しちゃって。そこのコンビニ寄ってくるね」



 はっきりと見えた訳ではなかったが、見間違える筈がない。こんなにも恋焦がれている

相手を間違えるとは思えなかった。



(やっぱり!)

「慶介っ」

「え?」



  ああもう、ほんとに大好きだ




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