いづる
 申し訳程度の外灯が照らす薄暗い公園内で、出流と慶介はブランコを揺するでもなく、

隣り合って座っていた。辺りには秋の虫の音が響き、時間が経つのも忘れそうなほどの

空気感だった。



「俺…、慶介に1つ謝らなきゃ」

「ん?」

 出流の言葉に、謝られる覚えのない慶介は首を傾げた。


                           だいぶ
「聞いちゃったんだ…。…その…昔のこと…。大分前に」

 そういえば、小学校での事件を出流に話したと椎名が言っていたのを思い出す。
             いすみ
「ああ…。その事なら伊澄から聞いてるよ。別に構わない」

「ゴメン」

「いや、俺も…日高から…」

 実は…、とバツが悪そうに呟いた。

「え?」



「小さい時に、母親亡くしてるって…?」

「ああ…」





「母さんが死んだのは、俺が3つの時だよ。物心もつく前だから、記憶なんかほとんど無くっ

て…、母さんがいなくっても俺は全然平気だって思ってた」

「そう…なのか?」

 困惑気味に呟いた慶介に、クスッと笑いかける。

「うん。そう思ってたんだよ」



「でも…小学校の時、付き合いベタで友達の少ない俺に、担任が言ったんだ…。『お母さん

がいない事をなにか言う奴がいるのか?』って…」





そのとたん、俺はワケもわからず悲しくなって

何故だか涙が出た



実際、そんな事でなにか言われた事なんかなかったし

友達は少なかったけどそれで満足してたし

イジメられた経験もなかった



そして、その時初めて気付いたんだ







「ああ、俺は母さんがいなくて寂しかったんだ…」って







他人の口から改めて言われることで

母さんのいない自分≠認識させられたんだろうな…






「でも認めたくなかった。



 認めてしまえば、寂しくて生きていけなくなりそうで…」





 慶介は黙って話を聞いていた。どこか寂しさを感じさせる虫の音が、二人の間を流れて

いく。

「………

 慶介に、こんな話をするのは何故だと思う?」



 何故だと思うか、と訊かれても答えが見つからず、黙って見つめる事しかできなかった。

「お前なら、少しはわかってくれる気がしたんだ…」

 言いながら、出流は慶介の座るブランコの鎖を、片手で向かい合うように引き寄せた。



「お前も寂しそうだから…」



 二人の顔の間は、ほんの数cmという距離だった。



「いきなりキスしてやろうと思ったのに、届かないや」

「えっ?」



  何してんだろ、俺



「…俺とじゃ嫌だった?」

 引き寄せた手を離し、ここからどう誤魔化そうかと俯いたとたん、グイッとブランコごと肩を

抱き寄せられた。

 驚いて顔を上げると、目の前に慶介の真剣な瞳が迫る。



「嫌なんかじゃない」



  うわ…



 自然と、出流は目を閉じていた。

 身も心も震えが走る。



  なんかすごい…

  幸せカモ


                   ぬく
 震える唇に、先日の間接的な温もりとは違う、慶介の体温が触れた。




TOP     NOVEL     BACK     NEXT



You are my reason to be

20