いすみ
「おめでとう、伊澄」

「ん、ありがとう」

 椎名は慶介から渡されたプレゼントを、照れくさそうに受け取った。



「椎名、これ…俺からも。誕生日おめでとう」
     いづる
「え!?出流ちゃんも?うわ、ホントに?」

「う、うん。何にしたらいいか分かんなくて、その…、ただのスポーツタオルなんだけど…。

部活の時にでも使って」

「すごい嬉しいよ、出流ちゃん。ありがとう。

 大事にとって置きたいところだけど、せっかくだから有難く使わせてもらうね」


            そうぼう
 本当に嬉しそうに相貌を崩す椎名に、出流はホッと息をついた。

「あぁ、今年も最高の誕生日だ…」

 溜め息混じりにしみじみと呟いた椎名に、クスリと苦笑をもらす。
     おおげさ
「そんな大袈裟な…」

「いや、ホントに。

 俺、子供の頃は自分の誕生日が大嫌いだったからさ…、誕生日がめでたいなんて思える

ようになったのは、ここ数年の事だから…。

 …まぁ、それも慶介のおかげなんだけどね」



「俺のおかげ?」

 身に覚えがないらしい慶介は、キョトンとしている。



「そ、お前のおかげ」

「俺、なにかしたか?」

 詳しく話す気はないらしく、椎名は「まあね」と笑っただけだった。









「え…っと、それでね、椎名」

「ん?どしたの、出流ちゃん」

「ええ…と、その…」

 出流は、なんと切り出していいか分からず、隣に立つ慶介を見上げる。

 出流の視線を受け、慶介は優しく微笑むと、椎名に向き直った。

「俺たち、付き合うことになったんだ」



「へえ、案外早かったかな」

「「は?」」



「誰が見ても一目瞭然だったからさ。特に出流ちゃんは。二人には黙ってたけど、結構噂にも

なってたし」

「う…」
             きさき
 そういえば、出流は后にも「分かりやす過ぎる」と言われていたのだった。反論の余地は

ない。



「これで二人は公認カップル≠チてやつだね」



  ・

  ・

  ・

「そ…

 そんなの嫌だぁー――!!」


     かみや
 私立華宮高等学校。

 秋の屋上に椎名の笑い声と、出流の叫びが響いた。





◆END◆





初めての方は、はじめまして。お久しぶりの方は、どうもご無沙汰しております。
このお話は、5年程前に『帰れない二人』というタイトルで同人漫画として本にした物を、今回小説という形に直してみました。
漫画の方では救いようのないラストでした。自分でも本当に最後の最後までこんな終わり方でいいのか?と迷いましたから。でも、最初にストーリーが頭に流れた時に、一番ハッキリと残った部分が、出流を亡くした慶介のモノローグ…というラストシーンだったんです。それで、これを描かなきゃ終われない。という思いで泣く泣く悲劇にしたのですが…、やっぱり後悔してしまいまして。いや、どっちを選んでもどこかで後悔したのでしょうけどね。
というわけですので、漫画の方をご存知の方もご安心下さい。小説ではハッピーエンドです!本当は、漫画版の続きも考えていたんですけどね;そんなのボツですよ!
書くとしても、違うキャラで書きます。



それでは、こんな所までお付き合い頂き、本当にありがとうございました。

下は、漫画版・出流視点の詩になります。なんとなく、気に入っていたので載せてみたり。漫画の後に入れた物ですので、天国へ行った出流の気持ち…という感じで。
最後の一行に、慶介の心を守りたくて守れなかった悲しみを…。





   人間の口から出る言葉なんて嘘が多い(俺も含めて)


            
 おもちゃ
   見た目が派手なだけの玩具なんて

   手に入れた時点で飽きられて

   他人の手に渡らないように独占だけはされるんだろう…



   だから俺は絶対に誰のものにもならないと

   誰の手にも渡らないと……  なのに

   なのに



   今更 優しい言葉に心が動いてしまうのは何故だろう



   嘘かもしれないのに(裏がないとも限らない)

   今だけかもしれないのに(突然つき放される…?)



   けど貴方の言葉はとても心地よくて

   俺の迷いや疑いも

   まるで意味のないもののように思えてしまう…



   愛され下手なこの俺を貴方がとかしてしまう

   そして



   愛されたいと願っていた自分に気付いていく…





   貴方を守りたかった 
――――








2006.6.18

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