Gold Plum
第二章
交錯
〜みのり&涼介の場合〜
四
@
トニーズの前に着くと、涼介が扉を開けて待っていた。
「どうぞ」
「……ありがとう」
先に入れと手で示され、みのりはおずおずと会釈する。
てっきり、自分ひとりでさっさと入って行くのかと思っていたが
違っていたようだ。
(何よ、やろうと思えばできるんじゃない)
末端とはいえ梅八家の一員なのだからできないほうが
おかしいのかもしれないが、
先ほどこちらに対してするつもりがないと言われたばかりである。
まさか舌の根もかわかぬうちに女性扱いされるとは思っても
みなかった。
だからなのか、普段され慣れているはずのこの手のことが
ひどく照れくさく感じる。
みのりは涼介の顔を見ることができず
俯いたまま足早に歩を進めた。
「いや……」
背後から近づく涼介の声遮るように、
待ち構えていた店員が笑顔のまま頭を下げてくる。
「いらっしゃいませ。トニーズにようこそ」
大学生くらいだろうか。自分より少し年上に見える
こげ茶色の上下に白いリボンのシャツといったレトロな制服を
纏っている女性の声に、
みのりはトニーズに着いたことを今さらながら実感する。
(わあ、前に来たときと何も変わってないわ)
壁紙、照明の明るさ、座席の向き、
何もかもが初めて来た時のままだ。
たった2、3年前のことなのだから
変わるはずもないのかもしれないが、
みのりにはそれが嬉しかった。
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