Gold Plum





第四章


疑惑


〜みのり&麻里の場合〜




IIA




「ふむ……。そうだな、ならちょうどいい。僕も一緒に行くことにしよう」

「え!」

 あまりに予測と違う言葉を聞き知らず身を浮かせると、

耳元から高松の不機嫌そうな声が響いてきた。

「僕が一緒では都合が悪いのかい?」

「そ、そんなことはありませんが……。

今日都のほうへお帰りになったばかりですのに……」

 黄梅市に行くのも出るのも許可がいる。

そう簡単に出たり入ったりできる土地ではない。

(そうよ。なんか変じゃない?)

 第一、いつもの高松らしくない。

それにここのところ、怒鳴られもしてない気がする。

(どういうこと……?)

 内心で首をかしげていると、

それがね、と高松がまた砕けた言葉遣いをし始めた。

「実は知り合いの家に財布を忘れてね。もう一泊させてもらうことにしたんだよ」

「そうなんですか?」

「ああ。我ながらまったくうっかりにもほどがあるよな」

 愉快げに笑う高松の言葉へ、麻里は曖昧に頷く。

「は、はあ。い、いいえ! そんなことは! ない、と思います……」

 とっさに取り繕うが、

相手にはこちらが戸惑っていることが伝わってしまったらしい。

「ありがとう。君にそういってもらえると元気になるな」

 気を遣われ、麻里は身を縮める。

「き、恐縮です……」

 小さな声で答えると、しばし沈黙があった後、高松が長い溜め息を吐いた。

やはり失望させてしまったようだ。

クビになったらどうしよう、とおろおろしていると、高松が口を開いた。

「……まあ、とにかく、明日果杷駅の改札に9時50分ごろに会おう」

「かしこまりました」

 麻里は急いで了解する。

「うん。じゃあ」

「お疲れ様でした」

 通話相手に深々とお辞儀して通信を切ると、どっと疲れがでた。

缶チューハイの汗はいよいよ激しくテーブルに流れだし、

小さな水溜りを作っていた。










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