Gold Plum

第四章


疑惑


〜涼介＆太一の場合〜


一

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「そうだね」


　涼介が頭を撫でてくる。

大きくて温かい手に慰められ、太一は青年に笑みを向けた。

そして続きを催促するために律子の顔を見る。


「それで、それで二人はどうなったの？」

「引き離されても想いあっていた二人はなんとか周囲の目を盗んで

密かに会っていたの」

「すごいですね、それ」


　恋人たちの行動に涼介が感嘆する。

しかし律子は淡々と語りを続けた。


「あるとき若者の元に一人の老人が現れたの。

老人は『この薬を飲めば獣から人に生まれ変われる』

そう言って若者に薬の入った瓶を渡すの」

「薬って黄金梅の実かな？」


　どんな願いでも叶う黄金梅の実が薬だとしたら、

若者と娘は周囲から反対されることなく幸せになれるだろう。

太一は期待に胸を躍らせる。

だが、涼介のほうは他に気になるところがあったようだ。


「老人って……誰なんですか？」


　顎へ手をあて考えるようにつぶやかれる青年の言葉に、

律子が軽やかな声で笑い出した。


「ふふふ。話はまだあるから焦らないで」

「あ、すみません。つい……」


　律子に諭され、涼介は照れ臭そうに後頭部を掻く。

それを律子は柔らかく微笑みながら見ると、

気を取り直すように話を戻した。


「じゃあ、続きね。

……人になれば恋人との関係を反対されずにすむと考えた若者は

疑うこともしないで老人から薬を受け取り、その薬を飲んだの」


　律子の口調がさっきまでの明るいものではなく、

重苦しいものへと変わった。

何か悪いことが起きてしまったのだろうか。

太一はごくりとつばを飲み込む。


「人間になったの？　なったんだよね？」


　若者のその後が早く知りたくて、律子へ詰め寄る。

しかし、彼女は悲しげに首を横へ振ったのだった。