Gold Plum
第五章
自覚
〜みのり&涼介の場合〜
二
I
「それを言うならあなただってお兄様である市長に想われてるじゃない」
みのりの言葉に苦い思いが胸に滲み出してくる。
「確かに雅秋兄は俺のことを気にしているとは思うよ」
涼介はみのりから視線を逸し、空を眺めた。
今日はこんなにいい天気なのに、
なぜ自分の心はいつまで経っても晴れないのだろう。
そんなことを思いながらこれまで過ごしてきた。
「けど、あれもあれで筋が違うんだ。鍛えようとしているっていうのかな。
上手く言えないけどさ」
長兄の愛情は美都子よりさらに分かりにくく、ねじれている。
一時期は本気で嫌われているのだろうとさえ考えたほどに。
だが、多分それは正解ではないのだろう。
(雅秋兄なりに何か考えがあるんだろうな、ってことはわかってる)
そうでなければあの嫁があそこまで彼を愛し、
信頼するはずもない気がする。
つらつらと義理の姉のことを考えていると、みのりが口を開いた。
「そういえばさっきお祖母様が亡くなったあとお兄様に
育てられたって言ってたけど、なぜ市長だったのかしら?
ご両親が育てるのが普通よね?」
みのりの疑問に涼介は覚悟を決める。
こんな面倒な話を最後まで聞いてくれるかどうかは疑問だが、
涼介はおもむろに言葉を紡いだ。
「両親は雅秋兄の言葉を信じてるんだ。
『涼介を立派な梅畑の当主にする』とかなんとか言ってね」
みのりの顔を見るのは辛く、涼介は空を眺めたままで話続ける。
「それが本当なのかどうなのかはわからないけど、
雅秋兄はちょっと怖いところのある人なんだ。
あの人は、俺の大事にしている物を壊してそれを見せつけることで
俺を鍛えようとする人でね」
一つ一つ区切るように言葉を発するが、みのりが口を挟む様子はない。
(ちゃんと聞いてくれようとしてくれているんだ)
にわかに心が温かくなるのを感じながら、涼介は過去を語る。
「バットとかボールとかまではしかたないって思えるけど、
飼ってる小鳥を蛇に食べさせようとした時は正直戦慄したかな。
だから、俺は友達がいても親しくならないようにしたし、
あっちもそれを察して離れてた感じがあるしさ」
空の雲は流れが速いのかすぐさま形を変えていく。
重い心が少しだけ灌がれたような気がして土手につけると、
みのりが小さく呻いた。
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