Gold Plum





第五章


自覚


〜みのり&涼介の場合〜





IA




(市長に想われているなんて言うんじゃなかったな……)


 だが、黒塀で話したときの雅秋の表情は確かに弟を想う兄のそれ

だったのだ。そういう眼差しを向けられるようになったのも、彼が

妻を得たからだというのだろうか。


(そんなの自分勝手すぎる。涼介が何をしたっていうのよ!)


 大人に振り回されるのはいつだって子供のほうだ。

みのりは胸の痛みを逸らすようにギュッと胸元のシャツを掴む。


(あの川辺で仲良くなっていればよかった)


 そうすれば自分も涼介も寂しい思いをしないで済んだかも

しれなし、意地を張らなくても素直に甘えることができた

かもしれない。


(やだ、これじゃあ、私がこいつのことを好きみたいじゃない)


 ないない、と心の中で一人突っ込みを入れ、涼介の顔を見ると

目が合った。瞬間、一気に熱が顔へ集中する。


(え? 嘘でしょう。本当に? 私、涼介のこと好き、なの?)


 耳鳴りのように脈打つ鼓動に、みのりは自覚せずには

いられなかった。あんなに反発していたのは、素直になれなった

反動ゆえだったのだろうか。まるで癇癪持ちの子供のようだ。

これまで涼介にとってきた態度が走馬灯のように脳裏を駆け巡る。


(嘘でしょう。今まで悪い印象しか与えてないじゃない。

絶対に嫌われてるわ……)


 さっきだって呆れた顔をしていた気がする。

ちらりと涼介を窺うと不思議そうな顔で見つめられていた。










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