Gold Plum





第六章


対峙


〜みのり&涼介の場合〜





AI




 戦々恐々としている自分とは違い、涼介が黒服たちの間を

縫うように声を張る。


「山波さん! どこにいるんですか! 山波さん!」


 青年の声が響く。これが日中だったら、ガラス窓から屋敷内の

様子が見えたかもしれない。だが今はカーテンが閉められており、

玄関からでは薄暗い廊下だけが視認できるくらいだ。


(本当に、この家のどこかに山波さんがいるのかしら……)


 奥へと続く長い廊下からは人の気配が感じられない。

みのりは不安になった。


(もし市長が、山波さんを逃がすための時間稼ぎをしている

のだとしたら……)


 こんなところでいつまでも燻っていてはまずいのではない

だろうか。みのりはちらりと碧たちへ視線を向ける。

しかし、碧と市長の口論はいまだに続いていた。


「あれはちゃんと心得ているよ」

「君は物忘れがひどいようだから忘れているかもしれませんが、

僕も奥様とは大学が一緒なんですよ?」


 碧の皮肉に、市長が瞠目する。だが、それは一瞬のことだった。


「忘れちゃいないさ。一度足りともね」


 彼らの過去に何があったのだろう。


(そういえば私、碧の昔話とか聞いたことがないわ)


 みのりは、昔からそばに仕えている男にも学生だった時代が

あったのだと、今さらながらに実感した。










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