Gold Plum
第六章
対峙
〜みのり&涼介の場合〜
三
AI
戦々恐々としている自分とは違い、涼介が黒服たちの間を
縫うように声を張る。
「山波さん! どこにいるんですか! 山波さん!」
青年の声が響く。これが日中だったら、ガラス窓から屋敷内の
様子が見えたかもしれない。だが今はカーテンが閉められており、
玄関からでは薄暗い廊下だけが視認できるくらいだ。
(本当に、この家のどこかに山波さんがいるのかしら……)
奥へと続く長い廊下からは人の気配が感じられない。
みのりは不安になった。
(もし市長が、山波さんを逃がすための時間稼ぎをしている
のだとしたら……)
こんなところでいつまでも燻っていてはまずいのではない
だろうか。みのりはちらりと碧たちへ視線を向ける。
しかし、碧と市長の口論はいまだに続いていた。
「あれはちゃんと心得ているよ」
「君は物忘れがひどいようだから忘れているかもしれませんが、
僕も奥様とは大学が一緒なんですよ?」
碧の皮肉に、市長が瞠目する。だが、それは一瞬のことだった。
「忘れちゃいないさ。一度足りともね」
彼らの過去に何があったのだろう。
(そういえば私、碧の昔話とか聞いたことがないわ)
みのりは、昔からそばに仕えている男にも学生だった時代が
あったのだと、今さらながらに実感した。
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