Gold Plum





第六章


対峙


〜みのり&涼介の場合〜





GID




「今? 今って何を?」


 紅から小声で発破をかけられた飛田はオロオロと視線を

彷徨わせている。まだ角は出ていないが、このままパニックに

陥れば大変なことになるだろう。鬼の形相で吠える山波の姿が

脳裏に浮かんだ。


(このままじゃ不味いわ! 早く飛田さんのフォローをしないと)


 だが何も思い浮かばず焦り始める。すると、飛田の隣に座って

いる涼介が、落ち着かせように彼の背中へ手を添えた。


「山波さんに今一番言いたいことを言えばいいんじゃないですか?」

「言いたいこと……」


 涼介の言葉に冷静さを取り戻したみたいだ。飛田は黙り込み、

山波へ告げる言葉を考え始めた。その姿に紅が胸の前で拳を

2つ作る。


「鹿さん、ファイト」

「ここが営業マンの力の見せ所ですよ」


 紅が他の男の応援をすることが許せなかったのだろう。

碧が皮肉気に飛田を鼓舞した。

その声に反応するように飛田が突然席を立つ。


「お義父さん! 芽衣子さんを僕にください!」

「……は?」


 山波が瞬きを繰り返す中、飛田は頭をさげたまま微動だにしない。

一瞬の沈黙のあと、涼介がため息まじりに鹿の獣人の名前を呼んだ。


「飛田さん……」

「言いたいことってそれなの?」


 まさかここで結婚承諾をもらうための言葉が出てくるとは

思っていなかった。てっきり獣人についての印象を変えるための

話をするものだとばかり思っていた。それだけに、なんだか

肩透かしをくらった気分だ。みのりががっくりと肩を落として

いると、隣で山波が居ずまいを正す音が聞こえてきた。


「……みのり様……」

「は、はい」


 まっすぐ見つめてくる山波にみのりは背筋を伸ばして返事をした。










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