スイーツ娘、村へ帰る。



第三章

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「おいしいです。でも正直なところ今回ばかりはクロナ様のほうが

上のような気がいたしますわ」

 イルミラの感想にアローナは臍を噛む。

「クロナはどんなお菓子を作ってるの?」

「レモンパイですわ」

 平静を装い尋ねると、イルミラがにこりと微笑んだ。

アローナは小さく息を吐き、イルミラを見遣る。

「あたしのタルト、何が足りないのか訊いてもいい?」

 素直にアドバイスを求めると、

イルミラが顎に指をあてつつ言葉を紡いだ。

「強いて言えば、いつものアローナさんならあるはずの

強烈なインパクトですかしら」

「あー、やっぱり……」

 不味いものを食べる勇気が持てず、

ついつい弱腰になってしまったせいだ。アローナは肩を落とした。

「謝ってしまうわけにはまいりませんの?」

 イルミラがためらいがちに告げてくる。

アローナはゆるゆると首を左右に振った。

「無駄よ。今謝ってもクロナが聞き入れてくれるわけないもの」

「確かにそうかもしれませんわね……」

 吐息したイルミラが、おもむろに踵を返し勝手口へ向かう。

見送るためについていくと、

扉へ手をかけたイルミラがでも、と振り向いた。

「わたくし、クロナ様には笑っていてほしいんですの。

ですからアローナさん、今回は絶対勝ってくださいますよね?」

 扉の前で問われた言葉へ向かい、アローナは答える。

「ええ、必ず」

 まかせてよ、と胸を叩いて見せると、イルミラが神妙に頷いた。










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