スイーツ娘、村へ帰る。



第五章





「逃げずに来たんだ」

 皮肉げに片頬をあげてくるクロナにアローナはむっとする。

「当たり前でしょ!」

 つい声を荒らげてしまうと、クロナがくくっと笑い声をたてた。

「でも悪いけど、今日は僕が勝つよ」

「あたしだって負けるつもりはないわよ!」

 自信たっぷりに宣言してくるクロナを前に、

アローナも仁王立ちする。

「今まで培ってきた僕の舌を舐めないほうがいいよ」

 笑いを収めたクロナが冷めた視線を向けてきて、アローナは眉根を寄せた。

「舐めてなんかいないわよ。ただ負けないって言ってるの」

「その自信がいつまで続くか見ものだね」

 鼻を鳴らすクロナの態度に腹がたつ。

「そ!」

 それはこっちの台詞だ、という言葉を、アローナは慌てて飲み込んだ。

「なんだよ?」

 胡乱な目で見つめてくるクロナを前に、小さく吐息する。

十分気を落ちつけてから無難な言葉を紡いだ。

「……別に。全力を尽くすって言いたかっただけよ」

 唇を尖らせて答えると、クロナが視線を明後日へ向けてあっそ、と吐きだす。

「話はそれだけ? 僕、準備で忙しいから」

 アローナはそれきり目を合わせようとしないクロナに失望して、

心配げなイルミラとともに反対側のキッチンへと向かった。










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