卵のつがい
第一章
1−10
「今日はどうした? また『ハゴソウ』が必要なのかい?」
さすがは店主というべきだろうか。以前購入した薬草を覚えてい
たらしい。ミラはアルノーからカウンター越しに尋ねられ、慌てて
首を横に振る。
「あ、いえ、今日は違うんです」
今回の旅が決まったときから、イースから紹介してもらったこの
薬草店で彼への土産を買おうと決めていたのだ。そのことをアルノ
ーへ説明しようと口を開く。しかし、突如聞こえてきた元気な子供
の声にミラは開きかけた口を閉じた。
「ただいまー」
「こら、またお前は! お客さんがいるんだから店の入口から帰っ
てくるなと言っただろう」
「だってこっちのほうが楽なんだもん」
入ってきたのはアルノーの息子フィットだった。腰に手をあて叱
りつけるアルノーの声はキツイが、声に反してその表情はどこか柔
らかい。それをフィットもわかっているようだ。口を尖らせ、甘え
るようなしぐさを見せるフィットにミラは口角をあげた。
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